生命保険の仕組みとは?公的保障から選び方まで体系的に解説のサムネイル画像

今回は、久留米大学 商学部 商学科にご在籍で、人文・社会 / 金融 / ファイナンスなどを研究されている金 瑢教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。

この記事の目次

金教授のプロフィール

学歴

2003年3月 商学博士(一橋大学)

1999年4月 - 2002年3月, 一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了

1997年4月 - 1999年3月, 流通科学大学大学院流通科学研究科修士課程修了

1991年9月 - 1995年6月, 中国南開大学金融学部保険学科卒業


論文

「生命保険会社における商品ポートフォリオの変化が収益に与える影響」,生命保険文化センター『生命保険論集 』第228号、2024年09月

「中国における規制緩和と損害保険業に関する一考察」, 久留米大学商学会『久留米大学商学研究』第29巻第1号, 2023年07月

「中国における規制緩和と生命保険業に関する一考察」,日本保険学会『保険学雑誌』第651号, 2020年12月

「生命保険企業のグローバル戦略に関する一考察」久留米大学商学会 『久留米大学商学研究 』第25巻第1号, 2019年09月

「規制緩和と生命保険マーケティングのイノベーション」 日本保険学会『保険学雑誌』第639号, 2017年12月

他多数


書籍等出版物

『はじめて学ぶリスクと保険』(第5版) 共著, 第12・13・16・18章 有斐閣, 2024年04月

『人の幸せにつづくビジネスの研究』久留米大学商学部編,共著,「米国における医療保険改革と民間医療保険―州民皆保険導入後のマサチューセッツ州の医療保険市場を中心に―」中央経済社, 2010年03月


引用:久留米大学 研究者情報


生活保障システムにおける生命保険の役割


金教授インタビュー画像

公的保障(年金・遺族年金・高額療養費)と民間保険の役割分担とは

質問
日本には公的年金や遺族年金、高額療養費制度などがありますが、その中で民間の生命保険はどの部分を補完する存在なのでしょうか?

まず生活保障システムは「我々個人とか家族を生活リスクから守る制度を一つのシステムとして捉えたもの」という前提があるのですが、一般的には以下の3層構造と言われております。


  • 第3層:個人保障→個人が主体となって準備する、不足分を補うための自助努力の保障
  • 第2層:企業保障→従業員の福利厚生(企業年金、団体保険)
  • 第1層:社会保障→社会保険、社会福祉、生活保護など(政府運営)


上記の中でも、社会保障が最もベースとなっていますが、現状では不足しているので自分で何とかしないといけないという問題があります。(社会保障の中で、一番比重が高いのは社会保険)


また、企業保障と個人保障は企業や個人がその担い手となるので私的保障と呼ばれ、公的保障である社会保障を補完する役割を果たしています。


社会保険には「年金、医療、介護、雇用、労災」の5つがありまして、よく話題になるのが、「年金、医療、介護」です。年金に関して、日本の場合はいわゆる公的年金が2階建てになっておりまして、共通の国民年金に加えて厚生年金があります。


国民年金は給付額や保険料も全て定額であるものの、毎年物価や社会情勢を含めて改定されます。厚生年金は加入期間や現役時に得ていた報酬によっても変わるのですが、標準的なモデル試算では、国民年金を含めて約17万6,000円ほどとなっています。


上記は標準モデルですが、具体例として、専業主婦である妻の国民年金が中心で夫が40年間就業した場合、2人合わせて公的年金としていくらもらえるかというと、23万7,000円ほどになります。


ただ、上記の標準モデルでも十分とは言えません。実際に厚生労働省が出している「高齢者、無職、2人世帯」の月平均の消費支出は約25万7,000円ほどとなっているので、この差額をいかに賄うかが重要となります。 ここからさらに「ゆとりのある生活」を考慮すると、調査によっては公的年金以外にプラス15万円ほど必要という結果もあります。


となると、やはりこの差額分がどうしても不足してしまいます。大企業で企業保障や企業年金がすごく充実していれば、さらに不足する部分は補うことができますが、そうでない場合は、この差額をどう埋めていくのかで必要になるのが「個人保障」です。


その中で生命保険を活用する必要があるわけで、医療に関しては日本の場合は国民皆保険ですし、さらに高額療養費制度があるので世界の中でも割と充実している方ではあります。


しかし、自己負担額が決してゼロではないのと、大きな病気(ガン、三大疾病など)や長期の療養が必要な病気、先進医療が必要な病気に罹患してしまった場合、治療費が高額になりますので、この部分は公的保障だけではやはり不足してしまいます。


そこで、個人保障の柱である生命保険が、公的保障を補完する存在になってくるのではないかと思います。


生命保険は「入りすぎ」なのか?生活保障全体から見た適正水準

質問
日本は生命保険加入率が高い一方で、「入りすぎ」と言われることもありますが、生活保障全体の視点で見たとき、適正水準はどのように考えるべきでしょうか? 

確かに、日本の生命保険の加入率は世界でもトップクラスであり、実際に生命保険文化センターという機関が2024年度に実施した調査によると、共済も含めた生命保険の加入率は9割ほどとなっています。


そのうち、民間の生命保険は8割ほどの加入となっており、1世帯あたりの保険加入件数の平均も3件であり、死亡保険の平均保険金額は2000万円弱となっています。


しかし、それで問題ないか、と言われるとそう言い切れるものではなく、「世帯主に何かあった場合に死亡保障がいくらあれば良いのか」という調査結果では、「年間必要額は354万、必要な年数は約17年」ですので、総額で約6200万円となります。


これはだいたい平均世帯年収の9.4年分となりますが、この額は決して全部自分で用意するものではなく、世帯主に万が一のことがあった場合には、公的保障(遺族基礎年金や遺族厚生年金)もありますので、こういった公的保障も視野に入れる必要があります。


それから子どもの有無や配偶者が勤めているかといった、家族構成のあり方によって生命保険の加入を考えなければなりません。


上記を総合的に判断して、いくら収入として入るのかを考えて生命保険の加入を決めるべきではあるんですよね。


もちろん保険金が多い方が安心ではあるんですけれども、当然その分保険料もかかりますので、生活水準を落とさないように基本的な生活費も考えながら、1ヶ月に使える金額の中でどれほど保険にお金を使えるのか、を考えるべきであると思います。


ライフステージ別に変わる生命保険の役割と見直しタイミング

質問
独身、子育て世代、子ども独立後などでの生命保険の役割の変化や、家計設計の中で見直すべきタイミングはいつでしょうか? 

独身の場合は、基本的に誰かを養う必要がないので、基本的に自分のために入る保険を考えた方がいいと思います。


生命保険は「家族のために入るもの」と「自分のために入るもの」に分けることができます。例えば、自分の老後だったり、病気の時に備えて入ったりする医療保険がありますが、老後の問題は直面するのが先になるので、まずは医療保険を中心に考えた方が良いのでは、と思います。


一方、子育て家庭などは万が一のことがあった場合の保障が大切となってくるので、定期保険や終身保険などを考えた方が良いでしょう。


総じて、年金、老後、医療の3本柱をトータルで考えなければならないと思います。そのうえで、ライフステージが変わるごとに合わせて見直していくことが一般的な考えになるかと思います。


生命保険商品の種類と選び方の基本


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「定期」と「終身」の違いは何か?生活者が押さえるべき基本原則

質問
「定期」「終身」など種類が多く、違いが分かりにくいのが現状だと思うのですが、生活者がまず押さえるべき「基本の考え方」を教えてください。   

まず保険という大きなカテゴリーから申し上げますと、保険は基本的に以下3種に分類できます。


  1. 生命保険
  2. 損害保険(火災保険や自動車保険など)
  3. 怪我や病気に備える傷害疾病保険(医療保険や傷害保険など)


一方、会社ベースでは日本の場合、保険会社は生命保険業の免許を取得した生命保険会社と、損害保険業の免許を取得した損害保険会社に分かれます。


生命保険会社は生命保険と傷害疾病保険の2つを扱える一方で、損害保険会社は損害保険と傷害疾病保険などを扱えます。


さらに、生命保険の場合は保険事故(保険金が支払われる事由)によって以下の3つに大別されます。


  • 亡くなったときに保険金がもらえる死亡保険(定期保険や終身保険など)
  • 保険期間が決まっている中で、満期のときに生存していれば保険金がもらえる生存保険(個人年金保険など)
  • 上記2つをミックスさせた保険が生死混合保険(養老保険、子ども保険など)


家族がいる場合は、 家族のために入る定期保険か終身保険か、あるいはこれを2つ組み合わせた定期付き終身保険というものがあるのですが、これを選ぶと良いですし、老後の所得に備えるなら個人年金保険、病気とかに備えるには医療保険が良いと思います。


一方、定期保険と終身保険について、定期は保険期間が決まっていて、たとえば10年とか20年です。そして、終身は亡くなるまでであり、一生涯保障が続くものなのですが、それぞれ良し悪しがあります。


例えば死んだときにもらえる保険金が一緒の、定期保険と終身保険を比べると、圧倒的に終身保険の方が保険料が高いので、保険料の観点でも、ライフステージに合わせて定期保険なのか、終身保険なのかを考えるべきだと思います。


保険は保障か資産形成か?貯蓄型保険の考え方

質問
近年は資産形成ニーズも高まっていますが、保険は保障目的と割り切るべきか、それとも貯蓄機能も評価すべきでしょうか? 

結論として、個人的には割り切るべきだと思います。


ただし、先ほど申し上げた死亡保険は保障機能中心です。そのため、定期なり終身なりで、不足している保障分を貯蓄性のある商品などとも比較して検討する必要があると思います。


とはいえ、貯蓄性のある保険は養老保険や年金保険などがありますが、こちらも既存の金融商品と比較して「メリットがあれば」選ぶようにしたいところです。


例えば、かつてバブル期に、「一時払い養老保険」がすごく売れたんです。当時の予定利率(生命保険会社が契約者から預かった保険料を運用する際に、あらかじめ見込まれる「約束の運用利回り」のこと)が、今は1%台であれば高い方なのですが、当時は6%台でした。


この一時払い養老保険は、保険期間が5年や10年だったので、「5年か10年以内に死亡する確率も低いうえに、税制上の優遇措置も受けられる」として当時は非常に脚光を浴びました。


上記はあくまで例ではありますが、生命保険としての良さはあるものの、総合的には貯蓄性はもちろん、利回りや優位性を見て決めた方が良いと考えています。 


合理的な保障額はどう決める?「年収の◯倍」の落とし穴

質問
よく保障額は「年収の◯倍」などと言われますが、本当に合理的な保障額はどのように算出すればよいのでしょうか? 

上記の生命保険の加入における「適正水準」にも関わってくるのですが、生命保険文化センターの実態調査から分かる


  • 遺族の生活費や必要年数
  • 上記からわかる生活支出の総額(年間生活費×年数)


の考え方も一部あるのですが、先ほど申し上げましたように公的保障もありますので、それを差し引いた上での必要保障額となります。


仮に世帯主に万が一何かあった場合は、例えば配偶者が専業主婦(夫)であったとしても、働かざるを得ないという状況になることも十分考えられるので、家庭ごとの状況や公的保障でもらえる金額を考慮し、不足する分は死亡保険で補うなどを検討すべきだと思います。


医療保険・がん保険は必要か?公的医療保障との関係で考える

質問
公的医療保障が充実している日本において、医療保険やがん保険はどのような人に向いている商品と考えられますか? 

日本は公的医療保障に関しては比較的充実している方であり、現役世代ですと3割負担、高額療養費制度もありますが、実際に自己負担額の引き上げや高額療養費制度の改正がなされていることから、今後この制度がこのまま継続していくとは限りません。


また、大きな病気の場合は、先進医療が必要で公的保険が適用されない部分だったり、治療が長引く場合は、当然自己負担の部分が非常に膨らんだりすることもあるので、これに備えるという意味では、民間の医療保険に入る必要もあるのではないかと思います。


ちなみに、医療保険は入院したらいくら、手術したら数十万、通院する場合は1日いくら、といった保険金(定額給付)がもらえます。つまり、一種の所得保障としての役割も備えていると思います。


そのため、入院中に収入が減ってしまったり支出が嵩んでしまったりすることもあるので、その部分を補うことができるという意味では、年齢関係なく大きな病気に備えるためにも、医療保険やがん保険、三大疾病保険には入っておくべきなのではないかと思います。


生命保険の販売チャネルとマーケティングの変化

営業職員・保険ショップ・ネット保険で何が違うのか

現在は営業職員、保険ショップ、銀行窓販、ネット保険など多様な販売チャネルがありますが、チャネルによって商品内容や価格に違いはあるのでしょうか? 

販売チャネルは大きく対面と非対面がありますが、


  • 代理店や営業職員との面談:対面での対話的なチャネル
  • ネットの場合:非対面で保険に加入できるチャネル


という違いがあります。 営業職員や代理店の場合は人を介して販売しているので、提案型営業で顧客のニーズにあった商品が提案できるという良さがあります。


また、近年(2000年代に入ってから)では、いわゆる銀行窓販、銀行などの金融機関で保険が販売できるようになっているんですよね。扱う商品としては、資産形成のニーズも踏まえた、銀行と親和性のある商品(一時払い終身保険や個人年金保険など)がメインであると思われます。


一方でネットの方は、ユーザーが自ら進んで調べてクリックしながら買える保険になりますが、商品としてはシンプルで分かりやすいものが多いと思います。上記のような違いを含め、対面と非対面の違いについて、保険料の差が明確にあります。


ちなみに、保険料は純保険料と付加保険料の2つによって構成されています。さらに、純保険料(原価)の計算は、保険金に基礎率の予定死亡率、予定利率を掛け合わせたもので構成されています。


もう一つの付加保険料について、こちらは事業費に充てる費用となるので、保険会社や販売者によって差があります。販売チャネルに絞ると、対面のような人が介入すると人件費や手数料がかかってきてしまうので、結果としてネット保険の方が安いことの方が多いです。


そのため、同じ保障内容の保険であっても、チャネルが対面かネットかで大きな差が出ることが多いです。


一方、ネット保険は商品として限られており、保険に関する知識がある人でなければ初見は内容がわかりにくいうえ、商品によっては自らネット上で加入できる保険が全てではないので注意が必要です。


なぜ日本は対面販売が主流だったのか?歴史的背景を読み解く

質問
日本では長らく対面販売が主流でしたが、この構造は歴史的・制度的にどのような背景がありますか? 

日本は対面販売で女性の営業者が、長く携わっていた背景があります。


これには背景がありまして、戦前日本に生命保険が入ったのは明治時代で、1881年に最初の生命保険会社ができました。ただ、当時は生命保険というのは贅沢品でした。


そのため、資産家や地主など、お金に余裕のある人が入るもので終身保険がメインだったのですが、戦後になって、やはり従来の富裕層のみを対象とする保険はなかなか売れなかったことや、戦後に勤労者世帯が増えていたのも事実としてありました。


そこで、保険会社は保険料の支払いサイクルを月払いにし(戦前は年払いや半年払いがメジャー)、保険金額も小口化して低めに設定したのです。


また、今はクレジット払いや口座引き落としが主流ですが、当時は個別に訪問して保険を売って、毎月保険料を集める集金作業が必要でして、ここに営業職員を採用していました。これを「デビット・システム」と呼ぶのですが、担当者に地区を決めて販売、集金、保全を担当させるシステムが台頭しました。


このシステムはサラリーマン世代が増えたと同時に、給料が月給取りになったという点で、当時の流れともマッチしていました。この担い手が女性の営業職員だったというわけです。


また、保険代理店も昔は一社専属制といって、一つの保険会社の商品しか扱うことができなかったのですが、今は保険代理店も資格を持てば複数の保険会社の商品を扱うことができる乗合代理店も増えています。


生命保険文化センターの『2024年度生命保険に関する全国実態調査』によると、かつては9割が営業職員を通して生命保険に入っていたが、現在は約56%が「営業職員」、約15%が「保険代理店」、約8%が「通信、インターネット」、約5%が「銀行窓販」、経由となっております。


つまり、現在も対面販売の方がメインではありますが、着実に販売チャネルの多様化は進んでいるといって良いでしょう。


ただ、上記の通り、ネット販売は確かに安いのですが、保険を考える際に主体的に考えることや自分に万が一のときがあった場合に備えて、自ら生命保険に入る人というのは限られています。


とくに、生命保険のニーズは潜在的ですし、保険の内容を理解するのも難しいので、日本に限らず、他の国も対面販売はどうしてもメインではあります。


これからは、一般国民の保険知識、いわゆる保険リテラシーと呼びますが、これが上がっていけば、非対面型での保険加入も増える可能性はあるのかなと思います。


デジタル化で生命保険はどう変わる?これからの選び方の視点

質問
デジタル化や資産形成志向の高まりの中で、生命保険の販売やマーケティングは今後どのように変化していくと予想されますか?また、消費者はどんな視点を持つべきでしょうか? 

インシュアテックの台頭が今後の保険業界の変化にインパクトを与えると考えています。また、ネットの技術を使った、先ほどのチャネルの多様化も今後も発展していくでしょう。


とはいえ、まだ限られた段階であるかなと思っており、実際に健康増進型保険も販売されて年数が経っていないので、加入している人が多くないのも現状です。


しかし、これから技術が進歩していく中、販売面や保全、保険金の支払いの面を含め、いろいろな意味で保険会社の業務が大きな変革を引き起こす可能性は十分あるのかなと思います。


他にも、技術の進歩によって、オンライン上のやりとりでAIを用いて顧客ニーズに対して、正確に提案ができるようになればネット販売の意義も大きくなるでしょうし、加入している保険も一元的に管理できるようになると思います。


その意味では、消費者である我々としても、まずは自分の生活保障も含めて保険リテラシー、金融リテラシーを身につける。そして、さまざまな媒体を通した知識の普及も、今後とも非常に重要になってくるのではないかと思います。