今回は、京都文教大学 臨床心理学部にご在籍で、社会福祉学などを研究されている二本柳覚准教授にマネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。
この記事の目次
- 二本柳 覚准教授のプロフィール
- 福祉が突然生活に入り込む瞬間
- 介護保険制度と障害福祉の違い・重なり
- 介護保険制度と障害福祉制度の基本的な考え方の違い
- 高齢者と障害のある家族が同時にいる場合の制度利用の難しさ
- ケアマネジメントと相談支援の役割
- ケアマネージャーと相談支援専門員は何を支える存在なのか
- 支援が機能している家庭と、そうでない家庭の違い
- 精神保健福祉領域から見える「見えにくい困難」
- 精神的な不調や障害が抱えやすい困りごと
- 精神保健福祉の支援や制度につながる際につまずきやすい点
- 社会福祉制度を「知らないこと」が及ぼす影響
- 制度を知らなかったことで家族の負担が大きくなったケース
- 早い段階で知っておくべき相談先・支援の入り口
- 地域福祉・地域包括ケアの役割
- 地域包括ケア・地域福祉は福祉制度をどうつないでいるか
- 地域の支援を早く使うことが生活の安定につながる理由
- 【30〜40代の方向け】これからの生活設計と福祉制度との向き合い方
二本柳 覚准教授のプロフィール
引用:京都文教大学 教員情報
福祉が突然生活に入り込む瞬間

現場で多いのは、「それまで何とか回っていた生活が、ある出来事を境に立ち行かなくなる瞬間」に、福祉が身近になるケースが多いと考えます。
たとえば、親の体調悪化による入院、家族の診断の確定、精神的な不調による休職などが重なると、家族だけで抱えていた問題が一気に表面化します。
30〜40代は仕事や子育ての最中にあることが多く、「家庭内で対応できない不測の事態が発生した」と感じたとき、初めて福祉制度の存在を現実のものとして意識するケースが少なくありません。
そのため、福祉は特別な家庭の話ではなく、ある日突然、誰の生活にも入り込んでくるものだと言えます。
ただ、そのような状況になった際に、どこに相談すべきなのか、今後の生活をどうすべきなのか、という点で皆さん迷われるポイントかと思われますので、「誰でも福祉を考えうる状況となる可能性がある」ということは念頭に置いておく必要があると思います。
介護保険制度と障害福祉の違い・重なり
介護保険制度と障害福祉制度の基本的な考え方の違い
基本的には文字の通りではあるのですが、介護保険制度は、高齢期に生じる介護ニーズを社会全体で支えることを前提に設計された制度です。
年齢要件が明確で、一定の条件を満たせば全国どこでも同じ枠組みで利用できる点が特徴です。
一方、障害福祉制度は、障害のある人が地域でその人らしく生活することを支えるという考え方が強く、年齢よりも生活上の困難さそのものに着目します。
支援内容も多様で、本人の状態や生活環境に合わせた柔軟な支援が重視されます。
同じ「支援」でも、制度の成り立ちや重視している視点は異なるため、家族が混乱しやすい部分でもあります。
高齢者と障害のある家族が同時にいる場合の制度利用の難しさ
最も悩みやすいのは、制度の移行タイミングに関わる部分です。
高齢になると介護保険が基本になりますが、障害の特性によっては、障害福祉の支援の方が生活に合っている場合もあります。また、障害を持っている方がそのまま65歳になったケースも悩ましい問題です。
子どもが成長していく過程で支援制度が変わるケースでは、
- 「このタイミングで制度を移行してよいのか」
- 「今の支援が途切れてしまわないか」
といった不安を抱えやすくなります。 制度は縦割りになりがちで、家族だけで全体像を把握するのは容易ではありません。
そのため、早い段階から専門職に相談し、生活全体を見据えた制度選択を一緒に考えることが重要になります。
ケアマネジメントと相談支援の役割

ケアマネージャーと相談支援専門員は何を支える存在なのか
ケアマネージャーや相談支援専門員の役割は、単にサービスを組み合わせることではありません。
よくある誤解として、「年齢や症状に合ったサービスを当てはめればよい」と考えられがちですが、実際の支援はそれほど単純ではありません。
たとえば、「60代だからこうした生活が合う」「同じ症状なら同じサービスでよい」といった短絡的な判断では、プランを作ったとしてもうまくいかなくなってしまったり、体調を崩されてしまったりすることも少なくありません。
同じ状態に見えても、
- 何を大切にしてきたか
- どんな生活歴があるか
- その地域に対する想いは何か
などは一人ひとり異なります。
ケアマネージャーや相談支援専門員は、本人が自分の希望をうまく言葉にできない場合でも、これまでの生活や価値観を丁寧に紐解いていきながら、サービスをつなげていきます。
しかし、厄介なポイントもありまして、例としてファミレスが挙げられるのですが、イタリアンもあれば高級志向なお店、ファミリー層が喜ぶメニューが多い、といったように各店舗で特色が異なりますが、一括りで言えばファミレスなんですよね。
介護施設も同じで、各事業所に異なる特徴があります。デイサービス一つとっても、スタッフ・得意領域・苦手領域はそれぞれ異なりますが、それを一般の方からすると見えにくい現実があります。
特に都市部では選択肢が多すぎて、かえって判断が難しくなります。だからこそ、ケアマネージャーがきちんと本人を理解して、プランを立てて適切にマッチする施設へとつなげていく必要があるのです。
また、公的サービスだけでは支えきれない部分も多く、必要に応じて民間サービスや地域資源をどう組み合わせるかも重要になります。施設やヘルパーの紹介はできてもそれ以外で
- 近所付き合いはどうするか
- 公的サービス以外のサービスの活用はどうするか
- どういったことがその人の資源として使えるのか
- 家族への支援はどのように行うべきか
など、インフォーマルな資源を活用したり、場合によっては作り出したりしていく旗振り役をするのもケアマネージャー、相談支援専門員の役割ですので、ただサービスをつなげるだけではないというところで、ぜひ活用いただければと思っています。
支援が機能している家庭と、そうでない家庭の違い
かなり大きな違いが出ると思います。
家族の負担というところで言えば、やはりサービスがその人の性格にうまくマッチしているかどうかが大きいと思っています。
その人の症状によって使えるサービスは限られてきますので、家族負担の多寡というものは、家庭によってある程度違いますが、本人が安心して使えるような施設を使われている、ないしはサービスを自宅に招いて使っているようなケースであれば、家族の負担は十分に減っていくと思います。
逆にサービスだけ使っていて中身がうまく回っていない、ということであれば、どうしても家庭内で問題を抱えなければならないことが増えてくるでしょう。
あとは家族の方もやはり疲弊していきますので、在宅生活でどう支えていけばいいだろうかとか、どんなことをすれば良いかの相談先(ケアマネージャー、介護支援専門員、相談支援専門員)があれば良いのですが、いない場合はそもそもどこに相談すれば良いかわからない、といった問題も出てきます。
よくあるのが、
- 介護保険を使いたくない
- 家族以外の人を招き入れて世話をしてほしくない
という方も一定数いらっしゃいます。ただ、本人のためとはいえ上記のような場合は家族側はすごく負担がかかってきますし、誰に相談していいかも正直わからない問題があります。
それこそ、上記の通り急に福祉の問題はやってくるなか、相談支援事業所や居宅介護支援事業所という介護保険のサービスがあることは知っていたとしても、「うちのケースで相談していいのか」というのもわからないと感じる人も多いです。
現代では、子育てのシーンでもあるように、子どもが障害を持っている場合にどこに相談すれば良いのかわからない、親の支援はどこに相談すれば良いのかわからない、といった形で、自分で抱え込み過ぎてしまった結果、倒れてしまってその人自身に福祉的な支援が必要になってくるという問題もあります。
私個人の考えとして、なかには「福祉サービスを使うことが恥」と考える人も一定いらっしゃるのですが、あるべきものは使うべきであると考えています。
たとえば、精神的な疾患を追う割合は、全部ひっくるめて4〜5人と言われています。自身や家族が認知症になること、働き盛りの人が突然精神障害になってしまう可能性も決して珍しいことではないのです。
したがって、誰がいつ課題を抱えるかもわからないからこそ、あるものは使う、そして使うために制度を知る、自分で制度を知るのが難しいのがわかっているのであれば、どこに聞けばこの問題は解決できたり相談に乗ってくれたりするのかだけでも、いろんなところからぜひ情報を仕入れていただければと思います。
精神保健福祉領域から見える「見えにくい困難」

精神的な不調や障害が抱えやすい困りごと
一番大きいのは、さまざまな意味での偏見の問題があります。外からの見え方に関してはもちろん、自分自身による偏見というのも少なくありません。
たとえば、京アニの放火事件の際に報道がいろいろとなされましたが、加害者が精神疾患の通院歴があった、と言われていました。そのため、本来であれば逆であるはずなのに、「精神疾患があったから事件を起こした」と世間的に思われてしまっている節があります。
結果的に精神疾患を患ってしまったとしても、マイナスイメージが強いからこそ自分がなるわけではないと思ったり、家族がなってしまうと当然それを否定してしまったりして受容ができないことがあります。
ほかにも、ある企業の話で、一度うつ病となってしまった人が復職となったときに症状の関係で業務量が調整された際に、一緒に働く人が理解してくれるかというとそうではなく、業務量が違うことで不公平を感じてしまうケースもあるように、結局それで社会に居場所がなくなってしまう人も少なくありません。
このような場合、社会から医療機関、医療機関から福祉現場、福祉現場から社会へ戻る流れがスムーズにいけば良いのですが、さまざまなものが邪魔をしてしまうケースもあります。
ただ、支援者自身も彼ら自身がすごく傷ついてきていることが分かっているので、どう社会の中に送り出そうかというところでも迷ってしまうのですが、安心して生活できる場を作ってあげたくても、「どうやってこの先その人の生活を支えてあげられるか」はやはり地域ごとに考えていかなければならない問題だと思います。
精神保健福祉の支援や制度につながる際につまずきやすい点
まずは自分自身が「福祉サービスを使いたくない」というような内なる偏見を持ってしまっている点があると思います。
とくに、統合失調症をはじめとした精神障害と、身体障害では障害に対する受容に大きな違いがあります。身体の障害は最初は否定していても認めざるを得ない事実として、本人の受容も早いです。
また、知的障害の場合になってくると、基本発覚するのは幼少期、 それこそ生まれてすぐだとか、3歳児検診までのところでほぼほぼわかるものの、親が子どもの将来を考えたときに覚悟ができる、という意味でも受容は早いです。
ところが、精神的な不調に関しては、発症が基本的に10代後半から20代前半であり、それまで問題がないケースが多いなか、急に大学や職場へ行けなくなってしまった、となると今ではずいぶん減りましたが「それは甘えである」「なんとかなるだろう」と考えてしまう家族の方が多く、受容に時間がかかるのも現状です。
他にも、その子が学校や職場に行けなくなってしまったときに、それを相談できる人がいないうえ、今でも精神的な不調への偏見が強いので外にはあまり行きたくない、というギャップが発生しています。
さらにいうと、仮に親にまだ収入があってなんとかできたとしても、親が65歳になり年金だけの生活になったとき、40歳近くの子どもをずっと自分が抱え続けて、ようやく親としても現状を認めざるを得なくなってしまったケースもあるのです。
このように、障害領域によって支援を考えるタイミングが違うなか、今でこそ支援サービスは増えてきたものの、その「支援サービスを使うまでの一歩が重い」点は一番つまずいてしまうポイントであると考えています。
したがって、
- 精神疾患についての理解を深める
- 病院にて適切な治療を受ける
- 支援サービスを積極的に活用する
というのは決して恥ずべきことではないという認識を、本人や家族もきちんと持っておくことが大切だと思います。
社会福祉制度を「知らないこと」が及ぼす影響

制度を知らなかったことで家族の負担が大きくなったケース
多いと思います。
たとえば、障害者総合支援法が整備される前は、自費でいろいろ対処しなければならなかった部分で負担が大きくなるケースがありましたが、今は年金関係でのケースが多いと感じます。
一定の障害を持たれている方であれば、障害年金を得られる可能性というのは当然出てきますし、仕事をしていなければ障害年金が唯一の収入源として、自立した生活を営んでいくためにも必要です。
しかし、障害年金の存在を知ることができる場所は、意外と少ないと思います。
たとえば、精神科に入院された患者さんでも、良くなったときは年金を取れる状況ではなかったからと説明がされなかったり(初診日から1年6ヶ月後の状態で障害年金が取得できるかの判断がされる。その後、再燃して状態が悪化した際には申請可能)、そもそも医師が年金の話をするケースはあまり多くはありません。
では、その情報をどこで得るのかというと、病院のソーシャルワーカーだったり、周りの人づてに存在を知ることも少なくありません。
そのため、年金が得られる状況だったが申請をしなかったために、これまでもらえていたはずのお金がもらえていなかった、という点で負担が大きいと言えるでしょう。
早い段階で知っておくべき相談先・支援の入り口
一般の方でいえば役所の障害福祉課等の窓口、障害を抱えている方や難病の方の場合は医療福祉相談室が挙げられます。
各自治体によって受けられるサービスは若干異なってくるものの、基本的には支援サービスへつながりやすい窓口が上記となります。
もちろん、障害を持つ方自身や家族の方が支援に関する情報を全て知っていなければならない、というわけでは当然ないので、まずは各種窓口に問い合わせてみるのが良いかと思います。
障害年金や支援の細かいことなど、わからなくて良いからこそ、今の状況で困っていることを相談できる場所、すなわちご自宅の近くの相談窓口はどこかを、自治体のホームページにも載っているので探しておくことをおすすめします。
地域福祉・地域包括ケアの役割
地域包括ケア・地域福祉は福祉制度をどうつないでいるか
昔でいえば、特に精神科病院とかはそうなのですが、我が国は障害福祉も高齢福祉も施設収容型のケアをずっとやってきたという歴史的な背景があります。
たとえば、大規模な新型病院では例外はあるものの、精神科病院の所在は大体町外れにあることが多いです。これは偏見の問題もあれば土地の問題も含め、いろいろな状況が加味されて、特定の地域にしか施設が設けられず、支援が必要な人はそこで生活せざるを得なかった実態があります。
ただ、これは地域ではなく施設単位の中でしか生活ができないことを指すので、ノーマライゼーションの考え方が入って、より施設でのケアではなくて地域の中で、その人が住みたい場所で生活ができるのが最善であるという考え方が浸透しつつあるのです。
とはいえ、ただ地域の中に入るだけでは症状が悪化してしまったり、生活に困難を抱いた時に家や地域の中では暮らせなかったりすると、結局施設に戻るしかなくなってしまいます。 それでは困るので、その人が住みたい場所できちんと生活をできるようにしていかねばならない、というのが地域包括ケアシステムの考え方です。
一方、施設を設けるだけで全部がクリアできるわけではないので、そこに住む住民の方々も、同じ住民同士として支え合っていくために「地域住民の方の理解」を浸透させていかねばならない、施設やその人が孤立せず、地域の中にある大事な資源であると地域の中全員の方が認識できるような施策を自治体や国が推進していくべきと考えます。
昔は本人に何かあれば隣近所の方が見に来てくれる、といったこともあったのですが、時代が変わるにつれて家族の背景も「複合家族」から「核家族」へと変わりました。
そのなかでも、家族だけの負担では厳しいところを支え合う関係性を育むことはもちろん、事業所としても地域に合わせた支援の取り組みを推進していくことが必要になってくると思います。
地域の支援を早く使うことが生活の安定につながる理由
やはり家族だけの負担では限界があるので頼れる人を見つけたり、いろんな支援サポートを使ったりして支え合って生きていくのが人間だと思うのですが、支え合うためには手を出してくれないと支えられない事実もあります。
したがって、生まれ育った場所、家族で暮らしてきた場所で住み続けるためにも、困っているときには支援サービスへ恐れずに、早い段階で頼ってほしいと思います。
実際に事件として、全てを自分で抱え込んでしまって最悪のケースへとつながってしまった事例もあります。
このように、やらなきゃいけないことに押しつぶされてしまって助けを求められなくなってしまう方もいらっしゃるので、勇気を出して助けを求めることをしてほしいと考えています。
【30〜40代の方向け】これからの生活設計と福祉制度との向き合い方
30代〜40代の方は、親の高齢化、子どもの進学や独り立ち、親としての自分自身の責任、仕事における役職の昇格といった、いろいろな状況の変化がある年代だと思います。
そんななか、家族や自分自身を守りつつ、万が一の際に今後も生活を維持できるようにするための、さまざまな支援サービスが取り揃えられています。
- 子どもが障害を抱えてしまう問題
- 親が障害を抱えてしまう問題
- 自分自身が障害を抱えてしまう問題
決してこれは対岸の話ではなくて、誰でも起こりうるものであり、その際に支援サービスを使うことは恥ずかしいことではありません。
自分たちの安心した老後生活、介護が必要になってもその街で暮らし続けるための保険として私たちは介護保険料を払っていますし、サービスについても住民税を払っていますから、だからこそ何かあった場合には「使えるサービスは積極的に使う」を意識することが大切です。
一方で、正しくサービスを使うためには「自分が住んでいる街にはどのようなサービスがあって、どのようなときに使えるのか」を知っておく必要があります。
自分自身の生活に直結するサービスしか見てこなかった方も、自分の街でこれから暮らし続けていく上で、「自分はどんな人生を送りたいのか」を考えつつ、それを達成するために、施設の場所や福祉サービスの種類を見ていただきたい、と思います。