家計・老後・教育で考える金融リテラシーの役割と課題のサムネイル画像

今回は、大阪公立大学 大学院経営学研究科 グローバルビジネス専攻、商学部 商学科にご在籍で、ファイナンスや金融機関論などを研究されている北野 友士教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。

この記事の目次

北野 友士教授のプロフィール

職歴

大阪公立大学 大学院経営学研究科 グローバルビジネス専攻 教授 2024年10月 - 継続中

大阪公立大学 大学院経営学研究科 グローバルビジネス専攻 准教授 2022年04月 - 2024年09月

大阪公立大学 商学部 商学科 教授 2024年10月 - 継続中

大阪公立大学 商学部 商学科 准教授 2022年04月 - 2024年09月

大阪市立大学 商学部・経営学研究科 准教授 2020年04月 - 2022年03月

桃山学院大学 経済学部経済学科 准教授 2017年04月 - 2020年03月

金沢星稜大学 経済学部 准教授 2011年04月 - 2017年03月

ノースアジア大学 経済学部 講師 2008年04月 - 2011年03月


学位・学歴

大阪市立大学 経営学研究科 博士課程後期 卒業・修了 2005年04月 - 2008年03月

大阪市立大学 経営学研究科 博士課程前期 卒業・修了 2003年04月 - 2005年03月

神戸大学 経営学部 夜間主コース 会計学科 学士課程 卒業・修了 1994年04月 - 1999年03月


著書(抜粋)

イギリスにおける銀行業と自己資本の展開―自己資本比率規制に対する歴史的検証― 北野友士(担当:単著) 文眞堂 2023年3月

公共経営序論 大阪公立大学商学部公共経営( 担当: 分担執筆 , 範囲: 第8章 地域経済と中小企業金融) 株式会社あるむ 2024年03月

学生に読んで欲しいお金の攻略本<第2版>Money Strategies for Students 北野友士( 担当: 単著) パブファンセルフ 2025年02月

学生に読んで欲しいお金の攻略本―ゼミ生と考えた金融リテラシーのすゝめ― 北野友士( 担当: 単著)


論文(近年の代表例)   

バーゼルⅢ最終化案とイギリスにおける対応の検証 北野 友士 ジャーナル・オブ・クレジット・セオリー 7 ( 0 ) 1 - 11 2025年07月

Examining the Influence of Business Owners' Financial Literacy on Profit Management in SMEs 北野友士, 山﨑泉 実践経営 ( 62 ) 51 - 63 2025年05月

高齢者支援に関わる専門職に対する金融リテラシー調査および検証 北野友士, 湯浅美佐子, 小山内幸治, 西尾圭一郎 経営研究 76 ( 1 ) 1 - 23 2025年05月


引用:大阪公立大学 研究者情報

金融リテラシーと家計の意思決定


北野教授のインタビュー画像

金融リテラシーの高い人・低い人の違いとは?

質問
先生の研究の観点から見て、金融リテラシーが高い人と低い人では、(情報収集・比較・判断のプロセス)にどのような違いが現れるとお考えでしょうか?

金融リテラシーの高低によって最も大きく異なるのは、「情報収集や資産運用への積極性」です。


金融リテラシーが高い人は、貯蓄と消費のバランスを考えるにあたって、金融に関する情報収集や資産運用に積極的である傾向が、はっきりと見えています。


一方で、金融リテラシーが低い人については、お金に関する情報収集が限定的になり、結果としてリテラシーが低くなってしまう印象を受けます。


以前、日銀が発表している「経済物価情勢の展望」をWeb上で読んでもらい、アンケートを行ったところ、金融リテラシーの高い人は「物価が上がる」、もしくは「物価が下がる」という形で意見はわかれても、「分からない」と回答した人が1割ほどでしたが、金融リテラシーが低い人については「分からない」と回答した人が5割を超えていました。


このように、金融リテラシーが低い人の「分からない」という反応が多いことが傾向として見られたので、私自身としても、この反応をなんとかして減らせるような社会的アプローチが必要であると感じています。 

家計管理・金融商品選択で多くの人が陥りやすい判断ミス

質問
家計管理や金融商品を選ぶ場面で、多くの人が共通して誤りやすい判断や思い込みには、どのような特徴があるのでしょうか? 

金融リテラシーの高低を問わずに言えることがあるとすれば、「多くの人がやっているから(やっていないから)」という理由で、家計管理や金融商品選択の判断をしていくのはあまりよろしくないのかなと思います。


たとえば、新NISAやオルカンと呼ばれる投資商品を多くの人が利用するようになりました。


確かに最初のステップとしては適切にリスク分散されている商品もあり、初心者の人には良いと思うのですが、それでも「周りがやっているから正しい」と判断するのは控えた方が良いでしょう。


そのため、「みんながやってるから」ではなく、「今の自分に必要なものかどうか」をきちんと見極める必要があります。


だからこそ、金融リテラシーの高低は関係なく、「どう考え、どう判断すればよいのか」という思考の枠組みを持てるようにすることが重要です。 

現役世代の金融リテラシーと老後資金準備


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金融リテラシー水準が老後資金準備行動に与える影響

質問
現役世代の金融リテラシー水準は、老後資金準備の有無や、その具体的な行動にどの程度影響しているとお考えでしょうか? 

これは明確に影響が出ています。


やはり金融リテラシーの高い人は、老後資金の準備に非常に積極的に取り組んでいるのは、 各種調査や私が共同研究で行ったアンケート調査でも、はっきりと結果が出ています。


特に、「長期投資」と「分散投資」に関する知識を問う問題に正解できた人たちは、老後に必要な資金を把握したうえで実際に準備を行っている結果が出ていました。


一方、同じアンケート調査で興味深い発見もあって、回答者の属性として「既婚」となっている方が老後資金準備に積極的であることもわかりました。


やはり家族がいると、ライフデザイン・ライフプランに基づいて、将来のことを考えざるを得ない状況にあり、結果的に老後資金の準備をしなければならないと考えているのではと推測しています。 

「不安はあるのに準備できない」背景要因

質問
老後に不安を感じている人は多い一方で、実際には準備が進んでいないケースも少なくありません。この背景には、どのような要因があるとお考えでしょうか? 

現役世代に対して調査したときに、「給与所得を得ている」ことが、老後資金の準備にポジティブな影響を与えていることがわかりました。


そのため、当たり前の話ですが「給与所得を得ているかどうか」はポイントになります。


ただし、給与所得が高くても金融リテラシーがなければ、老後資金の準備ができないという事態にもなりかねません。実は先ほど紹介したアンケート調査では、「長期投資」や「分散投資」の正しい知識の影響の方が、「給与所得を得ている」ことよりも老後資金の準備に強い影響を与えていました。


私自身も金融リテラシーの重要性を再認識した調査結果でした。


また別のアンケート調査では、たとえば介護職のような高齢者向けのサービス業に従事しているような人は、老後資金の準備に積極的であることがわかりました。介護職に従事している人は、老後を迎えている人と接していて老後のイメージができていることから、老後資金の準備に対する意識が高いのだと思います。


このことから、収入に関わらず「老後の生活をイメージできているか」も一つのポイントになってくるのではと思います。 

FP教育は家計行動をどう変えるのか


FP教育が知識取得にとどまらず行動変容につながるメカニズム

質問
FP(ファイナンシャル・プランニング)教育は、単なる知識の習得にとどまらず、どのようにして実際の家計行動の変化につながるとお考えでしょうか? 

FP教育の効果を測るというのは難しい問題です。


なぜなら、FP教育の効果を測るというのは難しい問題です。FP教育を実施して行動が変わったとしても、教育の効果なのか、その人の資質によるものなのか、という区別が難しいからです。


そのため、あくまで私個人の経験談になるのですが、私自身はもともとやりたいこともなく、就職活動に失敗してアルバイト先だった中小企業に拾ってもらうなど、割となんとなく生きていました。


その後、FPに興味をもって仕事を辞めてAFPを取得しました。金融実務の経験もない私がFPで食べていくのは難しいと感じる一方で、FPのような金融知識を普及させる仕事がしたいと考えて、大学院に入学して博士号を取得し、現在に至っています。


FP取得前はなんとなく生きていた私が、FPを取得した後は「FPを普及させたい」というライフデザインを描き、そのために「大学の教員を目指す」というライフプランを立てて、そのための資金は「勉強や研究に集中するためにアルバイトは一切せずに奨学金を利用する」というファイナンシャル・プランニングを実行したことになります。


つまり、これはFPの「知識を取り入れた」というよりも、逆算的な思考を手に入れたと感じています。


そのため、FP教育を通じて得た知識を活かしつつ、「将来の理想像」から逆算して今どういったことをしなければならないのかが明確になる、という点で個人の行動の変化にポジティブな影響があると感じています。 

効果が高いとされる金融教育・FP教育の内容とアプローチ

質問
これまでの研究や教育実践の中で、特に効果が高いと感じられた金融教育・FP教育の内容やアプローチには、どのようなものがありますか? 

FP資格の取得だけでいうと、学生を指導していて得た感覚としては「タックスプランニングを制する者が、FPを制する」というぐらい、タックスプランニングを理解できる学生は割と他の分野も理解できる傾向があると感じています。


ただ、金融教育を効果的にやるためにどうすればいいのかという問題は、私自身もなかなか明快な正解を得られていません。


特に、家庭で培った金銭感覚を、大学からのFP教育や金融教育で上書きするのは難しいとも感じています。実際に、学生さん達の中でも、資産運用していた保護者の元で育った学生さんと、そうでない学生さんを比較すると、「資産運用への距離感」が両者でだいぶ違うなと思います。


また、ゼミ生が学生197名を対象にアンケートを行った際には、幼少期にもらったお年玉をそのまま親へ預ける「お母さん銀行」をしていた学生は、他の学生と比較すると株式投資への興味が低いという結果も出ていました。


そのため、なるべく幼少期から「お金のことは自分で意思決定する」という習慣を身につけさせることが、効果の高いアプローチなのではないかな、と考えています。 

高齢期における金融判断と支援の視点


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高齢期に特有の金融判断リスクとは

質問
高齢期に入ると、金融面ではどのような判断リスクが特に高まりやすいとお考えでしょうか? 

どんな優秀な人でも年齢が高まると認知機能が低下していきます。


その中で、金融広報中央委員会などが実施した金融リテラシー調査では、年齢層が上がれば上がるほど金融リテラシーが高いという結果が明確に出ています。


背景として、経験に裏付けされた知識を豊富に持っていることが挙げられます。


一方で、男性の方に多いのが「自身の金融リテラシーを過大評価」する自信過剰の傾向も見られます。 高齢者が標的になりやすい特殊詐欺でいうと、男性は儲け話の詐欺に引っかかりやすい傾向が指摘されています。


また、女性は家族を守りたい意識が強いため、家族が何らかの損害を発生させてお金に困っているというストーリーの詐欺に引っかかりやすい、という傾向が指摘されています。


また、現在の高齢者は現役時に専業主婦世帯が中心だった世代ですが、専業主婦世帯の女性の場合、どうしても個人の年金は少なくなりがちです。


夫と死別した場合や、熟年離婚した場合に、「生活できるだけの資産があるか」などは気を付けて欲しいポイントです。 

本人・家族・支援者に求められる金融知識と役割分担

質問
高齢期の金融判断を支えるためには、本人だけでなく、家族や支援者にどのような金融知識や視点が求められるでしょうか? 

高齢者のいる家庭にとって「介護」は非常に大きな問題です。


被介護者である高齢者がどのような老後を希望するかにもよりますが、被介護者と介護者の間で情報を共有しておく必要があります。


そして、一番避けて欲しいのが「介護離職」であり、それを避けるために介護保険制や介護休業給付金などの制度があることを是非知っておいて欲しいと考えています。


介護職等の高齢者サービスに従事する人たちにアンケート調査を行った際に、家族介護者から相談される内容について質問したところ、最も多かったのは「介護疲れ」の約35%で、次いで多かったのが「介護費用・お金の悩み」で約33%となっていて、「被介護者の症状や状態について」の約31%をわずかながら上回っていました。


同じアンケート調査では、「被介護者やそのご家族が介護保険や社会福祉の仕組みをよく理解しておらず、相談を受けるのが遅くなったと感じることがある」という回答も29.5%を占めていました。


家族介護者自身の生活を守りながら、高齢者家族の介護と向き合うために、介護にまつわる制度や費用についてきちんと把握しておく必要があると思います。


また介護職等の高齢者サービスに従事する人たちには、そうしたさまざまな相談が寄せられていることもアンケート調査でわかりました。


ただでさえ、大変な介護職等のエッセンシャル・ワーカーの皆さんにあまり追加的な負担はかけたくないですが、そのような情報を収集して介護等の現場で生かす仕組みがあればとも思います。 

幼児期・学生期から始める金融教育


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幼児期・児童期の金融教育が将来行動に与える影響

質問
幼児期・児童期に行う金融教育は、その後の金融行動や考え方にどのような影響を与えるとお考えでしょうか? 

金融リテラシーを身につけるにあたって、まず学校でその基礎となる「読解力」や「計算力」を身につける必要があります。


加えて、自分のお金は自分で管理する、という実践的な家庭教育との連携が必要になってくるのではないでしょうか。子ども自身にお金の管理を任せれば、お金を使い過ぎたり、つまらないものを買ったりといった失敗も経験するでしょうが、そうした経験が大事だと思います。


先ほどの「お母さん銀行」もそうですが、失敗も含めて自分でお金の使い道やタイミングを考える経験は、将来になって金融商品を選択する段階に入ったときにも影響を与えます。


お金を使う場面で一度立ち止まって考える習慣や、短期的な欲求だけで判断しない姿勢は、早い段階での教育を通じて育まれるものだと考えています。 

学生向け金融教育で身につけておきたい「大切な力」とは

質問
学生向けの金融教育において、特に「身につけてほしい」と考えている力には、どのようなものがありますか? 

一番身につけてほしい部分としては、「今と将来の両方を大事にする」という考え方です。


たとえば、アルバイトの収入で月5万円収入が入ったとき、学生のうちにしかできないことのために全額を使うのも選択肢の一つとしてアリだと思います。ただもしそこで全額使った場合、後から欲しいものが出てきたときにあきらめる必要が出てきます。


「現在の選択が将来の自分の行動を縛るかもしれない」、ということをお金の意思決定を通じて学んで欲しいと思います。


また、充実した老後には3000万円程度の資金が必要と言われていますが、仮に30歳〜60歳まで資産運用せずに積立のみで準備する場合、年間100万円×30年で3000万円になります。


しかし、これが1%複利で積立投資していくのであれば、毎年の金額が86万円程度になります。さらに2%複利の積立投資であれば、毎年の積立額は74万円程度になります。


毎年の積立額が少なくて済むということは、それだけ現在使えるお金が増えて生活を充実させることができます。


「将来(老後)のことを考えて欲しい」と言うと若い学生さんには説教臭く聞こえてしまうと思いますが、将来のことを考えることは現在の生活も充実させることにつながる、という点は学生さんにも伝えたいと思っています。 

家庭・学校・社会が連携した金融教育の今後の方向性

質問
今後、金融教育をより効果的に進めていくためには、家庭・学校・社会はどのように連携していくべきだとお考えでしょうか? 

現行の学習指導要領になってから、家庭科や社会科で金融リテラシーの内容が盛り込まれるようになっており、金融教育で教えるべき内容自体は学校教育で学べるようになっていると思います。


イギリスでは金融リテラシーの内容が既に義務教育に組み込まれていて、PSHE(人格的社会的健康教育)という科目に盛り込まれました。ところが若手社会人に「金銭管理の方法を学んだ科目として思い出す科目」を質問したところ、圧倒的に割合が高かったのは「算数/数学」だったそうです。


そのため、学校教育や日常生活の中にどれほど算数・数学的思考を取り入れられるかがとても大切なのではとも感じます。


とはいえ、学校での金融教育は保護者の金銭感覚や教育方針によって打ち消されてしまう可能性が非常に高いと感じています。そのため、親世代の人たちの意識を変えるような取り組みが必要であると感じます。


親世代ひいては社会人が金融リテラシーを身に付けるためには、社会における教育機会を提供する必要があります。社会での金融教育では、一昨年に発足した金融経済教育推進機構に大きな期待が寄せられていますが、「必要なときに必要な知識を得られる環境」を、社会として整えていく必要があると思います。


家庭や職場でも「お金のこと」に関して積極的に話す機会を設けることも大事です。金融リテラシーの高い人は、「友人や知人とお金について話す機会がある」という傾向もアンケート調査で確認できました。


自分一人で抱え込まずに誰かと話すと、思わぬ情報を得られることもあります。金融経済教育推進機構が提供してくれる無料相談の活用なども、効果的であると言えるでしょう。