

この記事の監修者 井村 那奈 フィナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナー。1989年生まれ。大学卒業後、金融機関にて資産形成の相談業務に従事。投資信託や債券・保険・相続・信託等幅広い販売経験を武器に、より多くのお客様の「お金のかかりつけ医を目指したい」との思いから2022年に株式会社Wizleapに参画。
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この記事の目次
- 年金を75歳からもらうと84%増額!損益分岐点は?
- 75歳まで繰り下げた場合の年金額シミュレーション
- 損益分岐点は「約87歳」
- 繰下げ受給の申請は慎重に判断を
- 年金を75歳からもらうのは自分にとって正しい選択?迷ったらFPに相談を
- 年金を75歳からもらうメリット
- 年金額が大幅に増える
- 長生きリスクに備えやすい
- インフレ対策になる
- 年金を75歳からもらうデメリット
- 75歳までに死亡すると増額分は受け取れない
- 10年分のつなぎ資産や収入経路の確保が必須
- 税金や保険料で手取りが目減りする可能性も
- 年金を75歳からもらうかどうかの判断ポイント
- 現在の健康状態と今後の見通しが良好か
- これまでの年金の加入状況に問題がないか
- 退職した後も生計維持が可能か
- 他の年金制度に影響を与えないか
- 年金を75歳まで繰り下げるか迷っている?マネーキャリアと一緒に考えよう
- 【まとめ】年金を75歳からもらうと増額するが注意すべき点も多い
年金を75歳からもらうと84%増額!損益分岐点は?
年金は65歳から受け取る方が多いですが、希望があれば60歳から受け取ることも可能です。しかし、早く受け取ると65歳から受け取る場合と比べて受給額は減ります。
一方、2022年4月からは受給開始を66歳以降に遅らせ、最大75歳まで※1繰り下げることも可能になりました。75歳から受け取ることにすると65歳から受け取る額と比べ、84%※2も増額された年金が受け取れることになるのです。
年金額をもう少し増やしたい場合は、繰り下げ受給する方法があります。しかし長生きしなければ結果的に生涯受け取る年金の合計額が減ってしまうかもしれません。
75歳に繰り下げた場合の損益分岐点は約87歳です。繰り下げた方が得になるのは87歳より長生きした時になります。
※2参照:年金繰下げ支給|日本年金機構
75歳まで繰り下げた場合の年金額シミュレーション
受給開始年齢 | 増額率 | 月額 | 年間支給額 |
---|---|---|---|
65歳 | 0% | 100,000円 | 1,200,000円 |
70歳 | +42% | 142,000円 | 1,704,000円 |
75歳 | +84% | 184,000円 | 2,208,000円 |
※参照:年金の繰下げ受給|日本年金機構
繰り下げできる期間は1カ月単位で、繰り下げの増額率は「0.7×繰り下げ月数」で計算できます。
<例>
- 70歳(60か月)まで繰り下げると0.7×60=42%
75歳まで繰り下げると、65歳時点の年金額に対して84%増額の年金が一生受け取れることになります。一生月額184,000円の年金を受け取れることになります。しかし65歳~75歳になるまでの10年間は年金が受け取れません。
損益分岐点は「約87歳」
65歳から年金を受け取った場合と、75歳から受け取る場合の総額が逆転する時期が損益分岐点です。おおむね「87歳前後」で受給総額が並びます。
【損益分岐点の計算例】
- 65歳から受給開始した場合:受給額が月額10万円とする
65歳から87歳になる前月までの263カ月間(21年11カ月)受給する場合、合計は約2,630万円となります。
- 75歳まで繰り下げた場合:月額が18万4,000円に増額
75歳から87歳になる前月までの143カ月間(11年11ヶ月)受給する場合、合計は約2,631万円となります。
87歳より前に亡くなった場合は、繰り下げた分だけ損をする可能性があります。一方、87歳以降まで長生きすれば繰り下げ受給のほうが得になるでしょう。
繰下げ受給の申請は慎重に判断を
年金の繰り下げをすると、年金が増えるのはとても魅力的に感じるでしょう。しかし、繰り下げ支給は、一度申請すると原則として変更はできません。
繰り下げ期間中に亡くなった場合、本人は年金を全く受け取れないことになります。遺族が受け取る場合も繰り下げによる増額部分は受け取れません。65歳時点の受取額で計算された金額を受け取ることになります。
75歳まで繰り下げた場合、75歳前に亡くなってしまえば、本人は全く年金が受け取れなくなってしまいます。この場合「受け取りを遅らせれば遅らせるほど得」とは限らないため、仕組みを理解したうえで慎重に判断すべきでしょう。
年金を75歳からもらうのは自分にとって正しい選択?迷ったらFPに相談を

年金の繰り下げ受給は、自身の健康状態や資産状況、ライフスタイルによって向き・不向きがあります。年金の手取りが増えると、税金や社会保険料の負担が増加する場合があります。
年金額の増加によって所得が上がり、所得税・住民税・健康保険・介護保険の負担が増えるケースが多く見られます。
ひとり暮らしや同居家族の状況によって異なりますが、住民税非課税世帯にはさまざまな支援制度があります。しかし、年金の増額により支援制度が受けられなくなるケースも考えられます。もともとの年金額が極端に少ない場合を除き、繰り下げの効果は「手取りベース」で試算・検討することが大切です。

年金を75歳からもらうメリット

年金を75歳からもらうメリットは次の3つです。
- 年金額が大幅に増える
- 長生きリスクに備えやすい
- インフレ対策になる
自身の状況に照らし合わせて、繰り下げのメリットが本当にあるかを検討しましょう。
年金額が大幅に増える
年金を75歳まで繰り下げると、増額された年金が一生涯受け取れます。もともとの年金額が少ない人でも、最大84%増の年金額になれば、老後の生活資金に余裕が生まれる可能性があります。
厚生年金の額が大きい人ほど、繰り下げ受給による増額の恩恵をより多く受けられるでしょう。多くの人は、年金が老後の主な収入源となるので増額された年金で毎月の生活費が十分まかなえれば、老後の生活費の心配は減るでしょう。
長生きリスクに備えやすい
増額された年金は一生涯続き、資産寿命を延ばしてくれます。年金の繰り下げ受給は、長生きしてもお金に不安なく過ごせる「資産の土台」を築く制度と言えるでしょう。
高齢になればなるほど病気やケガのリスクも増え、予期せぬ支出が発生するかもしれません。高齢になると医療費や介護費用の負担が増えることは想像できますが、手厚い年金があれば安心感は増すでしょう。
人生100年時代と言われる現在、長生きは喜ばしい一方で、老後の生活費不足を不安に感じる人も多くいます。繰り下げの制度は、資金不足の不安を軽減できる制度です。
インフレ対策になる
年金額の実質的な価値が物価変動によって目減りしないように、物価の変動に応じて年金額を自動的に改定する仕組みを「物価スライド」と言います。
もし物価スライドがなければ、年金を受け取り始めた時点では十分な金額でも、物価が上昇すると、同じ年金額では実質的な購買力が低下してしまいます。物価スライドは、このようなインフレによる年金の実質価値の目減りを防ぎ、受給者の生活を維持することが目的です。
マクロ経済スライドは、少子高齢化が進む中で、現役世代の負担が過重にならないよう、年金財政の長期的な均衡を保つために、年金額を調整する仕組みです。現在は、マクロ経済スライドにより、緩やかに年金の給付水準を調整することになっています。
年金を75歳からもらうデメリット

年金を75歳まで繰り下げるデメリットとして、主に以下の3点が挙げられます。
- 75歳までに死亡すると増額分は受け取れない
- 10年分のつなぎ資産や収入経路の確保が必須
- 税金や保険料で手取りが目減りする可能性も
繰り下げを検討する方は、自身のデメリットになりそうな項目を十分に検討しましょう。
75歳までに死亡すると増額分は受け取れない
年金の繰り下げ期間中に亡くなると、本人は年金を一切受け取れません。遺族には、未支給年金が支給されますが、増額分は反映されないため65歳からの年金額でしか受け取れません。
本人だけではなく、同居家族にも影響があるので増額分がもらえない可能性を家族に伝えておくことも必要でしょう。
男性の平均寿命は81歳※のため、一般的に損益分岐点である約87歳まで年金を受け取れる可能性は高くありません。女性であっても持病があり健康に不安がある人は、75歳の繰り下げは慎重に考える必要があります。
※参照:日本人の平均寿命|NHK
10年分のつなぎ資産や収入経路の確保が必須
公的年金を75歳まで繰り下げると、65歳から75歳までの10年分の生活費をどうまかなうかは、大きな問題になります。
繰り下げを検討する際は、次の内容を考慮して判断しましょう。
- 企業年金、iDeCo、個人年金などの貯蓄があるか
- 75歳まで働き続けて収入が得られるのか

税金や保険料で手取りが目減りする可能性も
年金の受取額が増えることで、税金や社会保険料の負担が増える可能性は十分にあります。
公的年金は、所得税法上「雑所得」に分類され、所得税などの課税対象※となります。年金収入には「公的年金等控除」が適用されますが、年金受取額が増えれば、その控除額を超えた部分の課税所得が増加するのです。
税金の負担は世帯構成によって異なります。同じ収入でも、ひとり暮らし世帯、夫婦2人世帯、子供との同居世帯では、控除の種類や金額が異なるため、税負担に差が出ます。
年金を75歳からもらうかどうかの判断ポイント

75歳まで繰り下げるべきかどうかの判断ポイントとして次の4つが挙げられます。
- 現在の健康状態と今後の見通しが良好か
- これまでの年金の加入状況に問題がないか
- 退職した後も生計維持が可能か
- 他の年金制度に影響を与えないか
上記の視点で検討した結果、すべてクリアできれば、年金を75歳まで繰り下げても良いと判断できるでしょう。
現在の健康状態と今後の見通しが良好か
健康状態は、重要なポイントです。75歳まで繰り下げることは、現在の健康状態が良くしばらく働き続けることに懸念がないと感じられるかどうかです。
中高年になってくると、今までの生活習慣で病気になる人が増えてきます。毎日の適切な食事や睡眠の確保、運動習慣は身についているでしょうか。健康維持の習慣が身についている人は無理せず良い習慣を続けていけば、健康を維持できる確率が高いでしょう。
健康診断も定期的に受け、懸念事項があれば早めに対処することも必要です。自分の健康は自分で守る必要があります。疲れを感じたら早めに休息をとるなど、無理がきかなくなることを自覚している人ほど、健康寿命を伸ばせる可能性があります。
これまでの年金の加入状況に問題がないか
個人の年金加入履歴によっては繰り下げ受給のメリットが予想より少なかったり、そもそも繰り下げ自体ができなかったりする可能性があります。
保険料の未納期間が長く、老齢年金の受給資格自体を満たしていない場合は、そもそも年金を受け取ることができないため、繰り下げもできません。
繰り下げによって増額されるのは、あくまで「本来受け取れる年金額」なので、未納期間が多いと、繰り下げても増額される元々の年金額が少なく、繰り下げ効果が限定的になります。
国民年金保険料の免除制度を利用していた期間(全額免除、半額免除など)があれば、年金額が減額※されます。未納期間と同様に、免除期間が多いと、本来受け取れる年金額が少なくなるため、繰り下げによる増額効果が減るかもしれません。
退職した後も生計維持が可能か
年金を75歳まで繰り下げをするためには、年金を受け取らない期間も経済的に困らない収入や貯蓄があることが必要です。
65歳以降も健康状態に問題もなく、働ける場所があれば働き続ける方がよいでしょう。働かなくても退職金や個人年金、iDeCoなど公的年金以外の収入があり、10年程度は公的年金がなくても生活費に困らないのであれば、年金を75歳まで繰り下げが可能になります。
老後のライフプランはできるだけ早く考え、実行する方が希望の老後生活を実現できます。お金を貯める習慣や節約習慣は一朝一夕にできるものではありません。老後は収入が減ることを予想し、コツコツと貯蓄や投資をしてきた人はある程度の資産が築けたでしょう。
他の年金制度に影響を与えないか
年金の繰り下げにより他の年金制度に影響が出る場合があります。65歳時点で老齢年金以外の障害年金や遺族年金の受給権がある場合、老齢年金の繰り下げ請求ができない可能性があります。
65歳到達日から66歳の誕生日の前日までに、すでに他の種類の年金を受け取る権利がある場合は、老齢厚生年金の繰り下げができないことが多いため、事前に確認しましょう。
特別支給の老齢厚生年金は繰り下げの対象外です※1。年金支給開始年齢の段階的な引き上げに伴う経過措置として支給される年金であり、この部分を繰り下げても増額されません。
他年金への影響が懸念されるときは、年金事務所などで確認してみましょう。

年金を75歳まで繰り下げるか迷っている?マネーキャリアと一緒に考えよう

75歳の年金繰り下げは、「長生き前提」の選択肢です。誰にでも合うわけではありません。年金を75歳まで繰り下げても問題がなさそうか、迷っている方は専門家への相談をおすすめします。
繰り下げを行うにしても75歳ではなく68歳や70歳の方が妥当になる人もいるでしょう。自分にとって最善のタイミングを見つけるには、専門家のアドバイスは役に立つはずです。
繰り下げの選択をする際には、ライフプランに沿ったキャッシュフロー表をもとに考えると安心感が高まります。
【まとめ】年金を75歳からもらうと増額するが注意すべき点も多い
- 公的年金は最長75歳まで繰り下げ可能
- 75歳まで繰り下げた場合、最大で84%の増額になる
- 87歳以上長生きすれば得をする確率が高い
年金の繰り下げは「損か得か」だけではなく自身の状況に合った選択をすることが必要です。判断に迷う方は少なくありません。専門家の力を借りて、後悔のない選択をしましょう。
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以下は厚生労働省の2022年のデータ※です。
・男性の平均寿命は81.05歳、健康寿命72.57歳
・女性の平均寿命は87.09歳、健康寿命75.45歳
男性で約9年、女性で約12年あります。
※参照:健康寿命|厚生労働省