今回は、東北大学 大学院教育学研究科にご在籍で、人文・社会科学、生活科学分野で、発達心理学/ 家族心理学などを研究されている神谷 哲司教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。
神谷教授のプロフィール
<経歴>
2021年4月 - 現在東北大学, 大学院教育学研究科, 教授
2009年4月 - 2021年3月東北大学, 大学院教育学研究科, 准教授
2008年4月 - 2009年3月鳥取大学地域学部, 准教授
2005年4月 - 2008年3月鳥取大学地域学部, 講師
2002年4月 - 2005年3月いわき短期大学幼児教育科, 専任講師
<学歴>
2005年3月東北大学, 大学院教育学研究科, 教育心理学専攻
1995年3月東北大学, 教育学部, 教育心理学科
<論文>
神谷哲司 (2026). 父性をめぐる冒険―発達心理学,父性・母性,親性,ジェンダー,多様性,家族発達からみる「父親」―.
小児看護(2026年1月号)へるす出版. pp.10-16.
Kamiya, T., & Komura, K. (2026). Financial capability and marital
satisfaction among married Japanese couples: Multilevel structure
equation modelling. Annual Bulletin, Graduate School of Education,
Tohoku University, 12, 1-20.
加藤道代・神谷哲司 (2024).
母親の認知する父親の感応的協働性尺度の作成:コペアレンティングにおいて母親が父親に対して抱く「察してほしい」思いに着目して.
発達心理学研究, 35, 26-38.
神谷哲司 (2020) 成人用ファイナンス効力感尺度の作成と信頼性・妥当性の検討. 教育心理学研究,68(2),160-173.
神谷哲司 (2017). ファイナンシャル・リテラシー尺度開発の現状と課題.
心理学研究,87(6),651-668.
他多数
<書籍等出版物>
気になる子どもの育ちかた : 発達障害の子が羽ばたくチカラ
川﨑, 聡大, 川上, 康則, 神谷, 哲司, 三富, 貴子, 和田, 一郎, 石田, 賀奈子 (担当:分担執筆,
範囲:家庭ではぐくむ子ども)
KADOKAWA 2025年4月 (ISBN: 9784046072993)
保育内容「人間関係」 : 理論から実践まで
塩野谷 斉 (担当:分担執筆, 範囲:保育者の感情労働と人間関係)
講談社 2024年10月 (ISBN: 9784065373279)
臨床心理学スタンダード.
岩壁茂, 遠藤利彦, 黒木俊秀, 中嶋義文, 中村知靖, 橋本和明, 増沢高, 村瀬嘉代子
(担当:分担執筆, 範囲:家族. pp.397-406.)
金剛出版 2023年3月 (ISBN: 9784772419160)
子ども家庭支援の心理学
本郷一夫・神谷哲司(担当:分担執筆, 範囲:子育て環境の社会状況的変化. pp.62-71)
建帛社 2019年(ISBN: 9784767950921)
夫と妻の生涯発達心理学
宇都宮博・神谷哲司
(担当:分担執筆, 範囲:乳幼児期から児童期にかけての子どもの成長と夫婦関係)
福村出版 2016年5月(ISBN: 9784571230554)
他多数
引用:researchmap
夫婦の家計管理はどう違う?タイプ別に見る特徴

夫婦の家計管理の主なタイプ(共有型・分担型・独立型)
夫婦の家計管理のタイプにはどのようなものがありますか?
以前、家計経済研究所が出していた1999年の調査によると、家計管理のタイプは大きく
- 専業主婦タイプ
- 共働きタイプ
に分類できまして、さらにそれぞれ以下のタイプに分かれます。
- 専業主婦タイプ
- 夫の稼ぎを妻に全て渡すタイプ(委任型)
- 夫の小遣い以外を妻に渡すタイプ(手当型)
- 共働きタイプ
- 夫婦それぞれの稼ぎを1つの口座に入れるタイプ(一体型)
- 夫婦それぞれが自分のお金をキープした上で残りを口座に入れるタイプ(支出分担)
他にも夫が管理するタイプなど、実際には細かく分けると十数タイプに分かれるのですが、大まかには妻に全部任せる委任型なのか、それとも共同の財布を作る支出分担なのか、それとも完全個別なのかという3つのタイプをイメージするとわかりやすいかと思います。
上記のタイプでいうと、99年のデータでは「委任型」が約35.9%で一番多かったことがわかっています。この時点でも3分の1程度でしかなく、全体としては少なめですが、当時2番目に多かったのは、共働きでも妻が家計の全部を管理する「一体型」(20.4%)でした。
つまり、夫の稼ぎと妻の稼ぎを全部合わせて管理する、妻側が全体の家計を管理するというのが、今から20〜30年ぐらい前は一般的であったと考えて良いと思います。
とはいえ、2000年代以降、共働きが増えてくる中で、近年では子どもを持つ家庭でも共働きが一般になり、さらにフルタイムで働く人も女性で増えています。
昨年の私の調査では、夫と妻それぞれに収入があり、それぞれで管理をする支出分担タイプが一番多くて18.6%。共同の財布を作る一体型タイプが17.9%という結果が出ています。
そのため、家庭によってタイプがバラバラになっているというのが最近の顕著な傾向であると思いますし、いわゆる家計の「個計化」そのものが進んでいることが今回の調査でもわかっています。
家計管理のタイプによって夫婦関係は異なるのか
家計管理のタイプによって夫婦関係は異なりますか?
データの流れから見たときに、夫が妻に任せて管理させるような委任型(世帯年収300万円〜500万円ほどの夫婦に多い)と、完全に夫婦共働きで一体化してしまう(高収入世帯に多い)で比較すると、一体型の夫は委任型の夫よりも夫婦関係が良いといった形で、タイプごとに違いが見られることがわかっています。
とはいえ、一般にも世帯年収が高ければ満足度も高いことが知られています。そこで、世帯年収の影響を抜いて分析をすると、「このタイプだからこういう志向がある人たちだ」という明確な結果が出てこない傾向があります。
その意味で、他にも管理タイプごとに、例えば「夫が稼いで妻が専業主婦をやっている」といった家庭では、夫婦間の勢力として夫の方が発言力や影響力が強いのかという点でも分析はしたものの、今回の調査では夫妻共に「家計管理タイプと勢力の強さとの関連」について明確な結果が出なかったというところはありました。
昔は、夫が働いて妻が専業主婦であるケースで、妻の方が「自分で稼いでいない後ろめたさがある」といった声も実際に聞いたことがありますが、現代の若い世代の方にとって、妻が管理をする委任型というのは、「稼いでいるのは夫、家事をやっているのは妻」といった役割分担として意識されており「単純に稼いでいるから偉い」といった時代ではなくなってきているのかもしれません。
家計管理の何が夫婦関係に影響するのか
それでは、家計管理の何が夫婦関係に関連しているのでしょうか?
家計管理のタイプは基本的には、家の中に流れてきたお金に対して誰がどう管理するかで区分けすることができますが、そうした実態では明確な違いは見て取れませんでした。
そこで、夫と妻どちらが管理しているかという意識レベルに着目して、
- 主体的に家計管理に関わっているという意識があるかどうか
- 家計管理の際に夫や妻と話し合いながら管理しているか
という質問で切り口を変えて調査をしてみたところ、どちらが管理をしているかにかかわらず、話し合いながら管理をしている夫婦の方が、世帯年収にかかわらず結婚満足度に良い影響が出ていることもわかりました。
そのため、話し合いながら家計管理ができているという風通しの良さがあることで、お金の流れもお互いに把握しやすいところもあるので、不満を持ちにくいということが言えるのだと思います。
ファイナンシャル・リテラシーは家計管理にどう影響するのか
ファイナンシャル・リテラシーは夫婦の家計管理にどのように影響しますか?
一般にファイナンシャル・リテラシーの定義が難しいのですが、平たく言えば「本当にお金をうまく使えるかどうか」になります。
具体的に、
- 「どれくらい知っているか」という知識
- 「どれくらいうまく扱えるか」という効力
- 「どれくらいしているか」という行動
- 「どれくらい満足しているか」という満足
で見えるものです。しかし、本研究では、単純に知っているかという知識の問題だけではなくて、それを自分が使えるという自信(効力感)を多面的に分析しています。
そして、知識やこの効力感については,20〜30代よりも50〜60代のシニア層の方が、また性別でいうと女性より男性の方が高いことがわかっています。背景としては男性の方が経済的な活動に関与する機会が多いでしょうし、その中で様々な知識や自信を持って、お金を扱っている人たちが多いことがうかがえます。
一方、知識面では男性の方が持っていたとしても、行動面で見てみると、実際にお金の管理をするのは女性の方が多いので、日常的なファイナンス行動の頻度は女性の方が高いという結果も出ています。
ただ、その差がどのように作られているのかはまだ明確にわかっていないところも多いのですが、知識が高い人ほど効力感も高いですし、効力感が高いほど夫婦関係の満足感も高く行動ができるという、全体の一貫したつながりも見えてきます。
やはり、知識を使おうと思って使えていると、うまく行動できますし、その分満足感にも繋がるという結果も出ています。
夫婦間で見てみても、効力感に関する得点の高さはバラバラではなく、たとえば高学歴の夫婦では効力感の得点は高いですが、そうでない夫婦は効力感の得点は低いです。
ここから、家計管理においては、お互いに知識を共有し合えている夫婦に関しては、知識や効力感が似てくるというプロセスがあると想定できます。
夫婦間で起きるお金のトラブルの実態

家計管理におけるお金のトラブルは、どのような夫婦間で生じやすいのでしょうか?
ここまでのお話では夫婦間で情報共有をするためにたくさん話し合えば良い、というように捉えられかねないですが、実際には、その「話し合い」そのものが、そんな簡単に上手くいくものではないというところもあろうかと思います。
今回の調査で、家計葛藤(夫婦間で家計に関してけんかになったり、考え方が違ったりしたこと)や、先の家計管理主体についての関連も調査しました。
そして、この葛藤の得点が高かったのは、夫回答では夫婦で話し合って管理していると回答した人よりも「自分が管理している」と回答した人で、妻回答では夫婦で話し合って管理していると回答した人よりも「配偶者が管理している」と回答した人たちでした。
これに、委任型タイプ、一体型タイプといった妻が全体を管理するタイプにおいて、他のタイプよりも、妻回答の家計の調和的な話し合いの得点が高かったことを合わせると、妻が家計管理をしている(できている)家庭では、妻が夫と話し合いながら家計に関する風通しを良くしているが,夫が管理する場合には、その風通しが機能せず抱え込むことによってトラブルが生じやすい可能性があると指摘できます。
そういう意味では、まだ今の日本において「男が外で稼ぐ」という意識がまだ根強いのではと思います。また、心理学研究の観点にはなりますが、トータルで見るとやっぱり平均値は女性の方がコミュニケーションを取るのが好きな人の方が多いというのも現状としては見られるので、そうした点も関わっているのかもしれません。
夫婦でお金の話し合いを円滑に進めるには
夫婦でお金の話し合いを円滑に進めるための具体的な方法はありますか?
家計について話し合うという心理的なハードルがまだ高いと考えている方も多い中、なかなか難しい問題かと思います。
ただ、家計の研究ではなく、別で進めている夫婦によるコペアレンティング(父母二人の子育て/共同養育)研究の知見の援用になりますが、そもそもの前提を共有できているか、というのが大きなポイントになるようにも思われます。
子育てについては、今の日本ではまだ母性神話が強く、母親が主たる養育者であることが多いので、母親が主体となって父親をうまくマネジメントすると調和的なコペアレンティングが形成されることが明らかになっています。
その際、妻が夫をうまく巻き込めれば良いのですが、出産を終えた妻の方も手一杯なので、上手く巻き込むことが必要と言われても余裕がないでしょうし、実際には自分がやってしまった方が手っ取り早いというところもあります。
ここが産後の夫婦間の調整の難しいところではあると思います。また、そもそも夫の方も子育てに前向きになっていないと、「夫婦二人で子育て」にはなりません。つまり、子どもにかかわるための必要な知識やスキル、あるいは、どのように子育てをしたいかという理想や価値観に父母間でズレがあると、調和的なコペアレンティング形成も難しくなります。
一方、お金のことはどちらがイニシアチブを取るかも、あまり社会的に定まっていないところもありますし、むしろ個計化の流れもあります。
そのような意味で、お金の問題も価値観とか理念がどれくらい夫婦の間で共有できているかとか、具体的には「どのように使いたいか」「どのように貯めていきたいか」といった方針だけでなく,そもそも「お金をどのようなものだと考えているのか」といったことについても話し合い、すり合わせが必要ではないかと思います。
今回、追加の分析でもう一つ面白い結果を紹介させてください。先ほどの「自分でお金を管理しているかどうかという主体的な管理意識」に加えて、「お金の所有意識(稼いだお金は誰のものか)」を合わせてグループ化したところ、以下の5つに分かれました。
- どちらが稼いでも夫婦のお金であると認識しているグループ
- 夫婦ともに「夫婦のお金」と認識し、話し合いながら妻が管理しているグループ
- 自分たちで稼いだお金はそれぞれ自分のお金であると認識しているグループ
- 夫が「夫婦のお金」を管理しているグループ
- 夫は「自分のお金」、妻は「夫婦のお金」と所有認識にズレがあるグループ
とくに、この5の所有意識がズレている夫婦が先ほどの家計葛藤の得点が一番高いことが示されていました。やはり、夫婦のお金の管理において、片方が自分のものであると思っていると、家計の管理の仕方についても前提がズレてしまい、夫婦間のトラブルにもつながりかねないのかもしれません。
ただ、そもそも日本では、今の大人世代は十分な金融教育を受けておらず、お金について語ることをまだ不得手にしている人も多いですし、夫婦双方の収入額は夫婦間勢力にも関わってきますので、情報共有をし合うハードルはなかなか高いのかもしれません。
家計の話し合いを円滑にする具体的な方法
リテラシーが低い場合、あるいは夫婦間で家計の話し合いがうまくいかない場合はどうすればよいでしょうか?
リテラシーが低い場合はシンプルに、リテラシーを少しでも上げられると良いのですが、海外でもファイナンス教育の効果は、あまり長期的には機能しづらいことが追跡研究でわかっています。
そもそも、ファイナンスに限らず、そもそも現代社会は生きていくために必要とされる情報が多すぎて、とてもではないですが一人の人間が記憶し、処理できるようなものではないと思います。
そうした人間の認知処理の限界を支えるために、さまざまなスマホアプリや生成AIなどを活用することも有益であると思います。
また、夫婦間での話し合いが難しくとも、夫婦で共有の財布を持っているのであれば、その部分をアプリなどで可視化することで会話を促すきっかけにもなると思います。
金融経済教育推進会議によると、ファイナンシャル・リテラシーには基本的に「家計管理」「生活設計」「金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」「外部の知見の適切な活用」があるとされていますが、このうちの「外部の知見」は非常に重要だと思います。
特に、金融商品を利用する際には、家計という夫婦だけの問題ではなくなりますので、適切で中立的な機関や専門家に、「わからないことは尋ねる」という姿勢をもっと持っていただけるとよいかと思います。
一方で、世の中どこに罠があるかもわからないので、「中立的な機関や専門家」を探すのも時として難しいですが、公的機関を介するなどで予防も可能かと思いますし、いきなりの相談はハードルが高いと感じる方には金融広報中央委員会のWebサイト(知るぽると:https://www.shiruporuto.jp/public/)なども参考になると思います。
※本インタビューの内容の一部は、JSPS科研費(JP23530842、JP15K13123、JP20K02403[研究代表者:神谷哲司]、JP22K03047、JP25K06116[研究代表者:加藤道代])の助成を受けた研究成果に基づいています。
