今回は、熊本学園大学 経済学部・経済学科にご在籍で、金融論を中心に研究されている國方 明教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。
この記事の目次
- 國方教授のプロフィール
- 金融リテラシーは老後資金を左右する?お金の知識が将来の資産形成に与える影響
- 金融リテラシーが高い人・低い人で老後資金にどのような差が生まれる?
- 投資だけではない!家計管理・借入・保険で優先して身につけたい金融知識
- ネット銀行と店舗型銀行はどう使い分ける?預金・住宅ローン・資産運用の考え方
- ネット銀行と従来型銀行の違いとは?それぞれのメリット・デメリット
- 預金口座・住宅ローン選びで金利以外に確認すべきポイント
- 銀行で資産運用を相談するときに利用者が確認すべきポイント
- 地方銀行の再編で私たちの暮らしはどう変わる?地域金融の未来
- 地方銀行の統合・再編で地域住民や中小企業に起こるメリット・デメリット
- 人口減少・デジタル化時代に地方銀行が果たすべき役割とは
- 金利上昇時代に家計はどう変わる?預金・住宅ローン・資産形成の新常識
- 金利上昇で家計の支出・貯蓄・借入はどう変化する?
- 住宅ローンは固定金利・変動金利どちらを選ぶべき?金利上昇局面での判断基準
- 金利のある時代に資産形成で重要になる考え方
國方教授のプロフィール
<学歴>
1992年 中央大学経済学部経済学科入学
1996年 中央大学経済学部経済学科卒業
1996年 中央大学大学院経済学研究科経済学専攻博士前期課程入学
1998年 中央大学大学院経済学研究科経済学専攻博士前期課程修了
2001年 大阪大学大学院経済学研究科経済理論専攻博士後期課程入学
2004年 大阪大学大学院経済学研究科経済理論専攻博士後期課程修了
<経歴>
1998年 監査法人トーマツ監査第1グループ
2002年 奈良産業大学経営学部非常勤講師
2004年 青森公立大学経営経済学部専任講師
2007年 青森公立大学経営経済学部准教授
2017年 青森中央学院大学経営法学部非常勤講師
2022年 青森公立大学経営経済学部教授
<論文>
わが国金融リテラシーにかかわる行動特性の検証:段階反応モデルの適用 単著 『東北経済学会誌』第75巻第1号 38-62 2022年3月
わが国金融リテラシー説明要因の再検証:『金融リテラシー調査 (2019年)』の利用 単著 『東北経済学会誌』第74巻第1号 1-28 2021年4月
項目反応理論による金融リテラシー再検証 単著 『青森公立大学論纂』第5巻第1・2号15-28 2020年3月
金融リテラシー説明要因の再調査:欠測への代入を通じて 単著 『青森公立大学論纂』第4巻第1・2号 15-24 2019年3月
金融リテラシーと金融行動の関係:『金融リテラシー調査(2016年)』結果から 単著 『青森公立大学論纂』第3巻第2号 17-30 2018年3月
わが国消費者の金融リテラシー: 主観的指標と客観的指標 単著 『東北経済学会誌』第71巻第1号 1-27 2018年3月
地域銀行グループ化の経営安定性に与える影響分析 単著 『東北経済学会誌』第70巻第2号 1-25 2017年3月
<著書>
ポストコロナ期にむかう青森県の産業 共著 2023年4月
グラフィック経営学ライブラリ8 グラフィック経営財務 共著 2019年5月
変化する青森県の経済と産業 共著 2019年3月
引用:熊本学園大学 研究者総覧
金融リテラシーは老後資金を左右する?お金の知識が将来の資産形成に与える影響

金融リテラシーが高い人・低い人で老後資金にどのような差が生まれる?
Q1.金融リテラシーの高低によって、老後資金の準備にどのような差が生まれるのでしょうか。また、実際によく見られる「知識不足による失敗例」があれば教えてください。
まず老後資金の準備について、計画面と行動面、2つの面で差が生まれると考えています。
計画面では、金融リテラシーが高まれば高まるほど、老後資金といった長期的なお金の計画を立てる人の割合が高まるという傾向がアンケート調査で観察されています。
また、行動面では相対的にリテラシーの低い方たちについて、他の金融商品と比べずに金融商品を購入するような行動を取ったり、あるいは高い手数料の金融商品を購入したりする傾向が見られています。
次に失敗例ですが、 例えばインフレの状況を考慮せずに、現金や、低金利な銀行預金で資産を運用して実質的な価値が目減りする例が考えられます。
また、高い利回りを追求しようとして、ご自身では理解が難しいような複雑な金融商品を購入する、そして購入後に金融トラブルに陥ってしまう例も考えられます。
他にも、最近話題になっていますが、仕組み預金(デリバティブ(金融派生商品)を組み込むことで通常の定期預金よりも高い金利を実現した金融商品)について、中途解約する場合の違約金や調整金などで元本割れの恐れがあるリスクについて、十分に理解しないまま契約してしまう、あるいは商品を購入してしまう例なども挙げられます。
投資だけではない!家計管理・借入・保険で優先して身につけたい金融知識
Q2.投資知識だけでなく、家計管理・借入・保険なども含めた場合、一般の人が優先して身につけるべき金融知識は何でしょうか。
前提として、年齢・職業・金融取引の経験によって、その方が持つ金融知識や水準も違ってくると思うので、絶対的な答えというのは回答が難しいと思います。
その上でお伝えすると、次の2点が挙げられます。まず1つ目としては、「金利のある世界における私たちの生活への影響に対する知識」であると思います。
1990年代以降の長期間にわたって、私たちは低金利の世界で過ごしてきましたが、ここ数年で、金利が上昇しており、金利のある世界に戻ってきたということで、我々は金利が上昇した世界について慣れていないわけです。
そのため、金利が上がったら我々の生活にどのような影響があるか、あるいは金利がある状況で我々がどう過ごしていくべきか、資産形成をしていくか、あるいは住宅ローンを借りるべきかどうかかについての知識を持つ必要があると思います。
2つ目に保険について、それぞれの人がどのようなリスクに直面しているか、これはライフステージによっても違ってくると思います。その上で直面するリスクに「どのような保険商品や保障内容が必要か」といった商品内容についての知識が必要になると思います。
ネット銀行と店舗型銀行はどう使い分ける?預金・住宅ローン・資産運用の考え方
ネット銀行と従来型銀行の違いとは?それぞれのメリット・デメリット
Q3.ネット銀行と従来型の銀行は、それぞれどのような強み・弱みがあり、生活者はどのように使い分けるのが理想的でしょうか。
ネット銀行と従来型の銀行ですけれども、費用の構造が相当に違うと考えられます。つまり、ネット銀行の場合には実店舗を構えていないので、実店舗にかかる費用を節減できるわけです。
そして、ネット銀行の強みとしては、実店舗にかかる費用を節約できるので、その節約した費用の分、例えば金利の高い預金を顧客に提供できるといった強みがあります。
一方でネット銀行の弱みとしては、やはり実店舗を構えていないことで、実店舗で相談したい顧客、あるいはITについてあまり知識がない顧客との接点を作りにくい点があります。
そのため、生活者としてみれば、ITに詳しい方であったり、定期的な相談ごとをお持ちの方だったりはネット銀行を使われるのが良いかと思います。ネット銀行であれば、高金利な預金商品であったり、低金利な住宅ローンを提供されたりする可能性が高いというわけです。
一方でITに不慣れな方、複雑かつ重要な相談事(相続など)を対面で相談したい方は実店舗で従来型の銀行に相談するニーズが強いのではと思います。
上記の通り、ITについての知識や経験、あるいは相談ごとの内容によって、ネット銀行と従来型の銀行を使い分けるのが良いと考えております。
預金口座・住宅ローン選びで金利以外に確認すべきポイント
Q4.預金口座や住宅ローンを選ぶ際、金利以外にも確認しておきたいポイントにはどのようなものがありますか。
商品の仕組み、特に「特約」は確認しておくべきポイントであると思います。
例えば仕組み預金という預金商品の場合であれば、満期の時期や満期に受け取る通貨を銀行が指定できる特約がついています。
この仕組み預金は原則として中途解約できない、あるいは仮に中途解約できるとしても違約金等が発生する場合があります。この性質から、かつての低金利時代には仕組み預金を利用するニーズが一定あったと思いますが、今は金利が上昇しているので、相対的に仕組み預金の価値が下がっている状況です。
そのような中で、銀行が満期の時期を指定するので、相対的に不利な運用を長期間行わなくてはならない、あるいは預金者が将来外国通貨を受け取ったとして、その時の為替レートによっては、円換算して元本割れに陥る性質があります。
また、住宅ローンについても最近になって「50年」という極めて長期の住宅ローン商品が現れているということで、今までにない商品(複雑な、生活者が理解しにくい商品)が生まれています。
上記のような商品の仕組みについて、必要に応じて金融機関から十分な説明を受け、ご自身が十分理解できるかによって、その商品を利用するかどうかを判断していく必要があると思います。
銀行で資産運用を相談するときに利用者が確認すべきポイント
Q5.銀行で資産運用の相談をする場合、利用者が「ここは自分でも確認したほうがよい」というポイントはありますか
ご自身のライフプランやお金に関する長期的な計画を立てた上で、資産運用等の相談をされると良いと思います。
つまり銀行側の提案を受け、提案を検討する際に、生活者としては、ご自身のライフプラン、お金に関する計画と銀行側の提案を比べて「この提案がどれだけ自分自身のニーズを叶えるか」というところを評価すると良いと考えます。
個別の金融商品については、次の3つがポイントになると思います。
まずQ4でお伝えした商品の仕組みです。例えば特約の有無や中途解約ができるかできないのか、あるいは中途解約の条件です。
2つ目は金利優遇などのキャンペーン付きの商品について、そのキャンペーンの利用条件です。
3つ目は手数料などの費用、コスト面がポイントになると思います。
地方銀行の再編で私たちの暮らしはどう変わる?地域金融の未来

地方銀行の統合・再編で地域住民や中小企業に起こるメリット・デメリット
Q6.地方銀行の統合や再編が進むことで、地域住民や中小企業にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
理論上のメリットですが、地方銀行が大規模になるので、それに伴い経営基盤が強化されますし、銀行が高度な専門人材(例えばコンサルティングなどに関わる専門的な人材)を確保しやすくなると考えられます。
一方でデメリットとしては、まず、統合再編に伴って支店が統廃合されていくと、銀行と顧客の物理的な距離が遠くなり、接点が少なくなることが懸念されます。
次に、特に都道府県内での再編・統合で銀行の競争が緩やかになると考えられます。銀行間の競争が緩やかになることを顧客から見れば、例えば今まで県内で2つの銀行から選べていたが、その2つの銀行が統合再編されて1つになったとすると、その1つの銀行の中から金融商品などを選ばざるを得ないというように、選択肢が狭まっていくかと思います。
人口減少・デジタル化時代に地方銀行が果たすべき役割とは
Q7.人口減少やデジタル化が進む中で、地方銀行には今後どのような役割が期待されるのでしょうか。
特に地方銀行は伝統的に、預金を集めて貸し出しなどで運用する「金融仲介」と呼ばれる業務を営んできました。
そして、地方銀行は地域密着の傾向が強く、かつ実店舗を構えているという特徴を持っています。
以上の特徴を考慮すると、今後はお金の仲介だけでなく、例えば銀行が情報を仲介していく、あるいは人材を仲介していくといった「お金以外の仲介」も果たしていき、地域経済の活性化へ今まで以上に貢献する役割が期待されていると考えています。
金利上昇時代に家計はどう変わる?預金・住宅ローン・資産形成の新常識
金利上昇で家計の支出・貯蓄・借入はどう変化する?
Q8.金利が上昇することで、家計の支出・貯蓄・借入にはそれぞれどのような変化が起こるのでしょうか。
標準的な経済理論では、金利上昇に伴って「他の事情を一定にして、現在の消費支出は減り、現在の貯蓄元本は増え、最後に現在の借入元本は減るという結果」が変化として予測されています。
借入については、もし借り入れたらその後の元利返済負担が増えてしまうので、借り手が新規借り入れを控えようとするわけです。
ただし、以上の予想というのは、名目金額での変化になります。
現実には、日本銀行の政策金利が現在引き上げられている状況でも、実質的な金利、つまり物価変動を考慮した金利はマイナスの水準にとどまっています。
実際の支出や貯蓄、借入の変化は、理論的予測よりと比べてそれほど大きくないと考えています。
住宅ローンは固定金利・変動金利どちらを選ぶべき?金利上昇局面での判断基準
Q9.住宅ローンでは固定金利と変動金利のどちらを選ぶべきか悩む人が増えている中、金利上昇局面では、どのような考え方で判断することが重要でしょうか。
住宅ローンは個人にとっては非常に長い期間の借り入れになり、金利変動が私たちの人生設計に多大な影響を与えます。
そのため、今まで以上に堅実な返済計画を立て、その返済計画を定期的に見直しつつ、シミュレーションを行うということが重要になると考えます。
また、既に変動金利で借り入れていらっしゃる方については、今後金利がさらに引き上げられる予想が立っている現状で「どれだけの金利水準を自分自身で許容できるか」を確認し、場合によっては繰り上げ返済などを検討していくことが重要になるかと思います。
金利のある時代に資産形成で重要になる考え方
Q10.「金利がほとんどない時代」と比べて、これからの資産形成ではどのような考え方がより重要になるのでしょうか。
金利が上昇する局面では、預金の金利が上がっていくだけではなくて、預金以外の金融商品の収益率も上がっていきます。
そのため、資産形成をする我々生活者としては、預金の魅力を把握しつつも、預金以外の資産運用という選択肢も広がっていきます。
したがって、我々としては選択肢が広がることの裏返しとして、様々な金融商品について商品の仕組みを適切に理解しなくてはならなくなっていく、といった考え方が今後とも重要になるでしょう。
(2026年7月16日にインタビューを実施しました)
