教育費はなぜ差が出る?所得・価値観・塾・習い事で変わる家計のリアル

教育費はなぜ差が出る?所得・価値観・塾・習い事で変わる家計のリアル

今回は、神戸学院大学 現代社会学部にご在籍で、家計の教育費などを研究されている都村 聞人准教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。

都村准教授のプロフィール

<学歴>

~1998 名古屋大学 文学部 哲学科 卒業

~2000 京都大学 教育学部 教育社会学科 卒業

~2002 京都大学大学院 教育学研究科 教育科学専攻 修士課程 修了

~2005 京都大学大学院 教育学研究科 教育科学専攻 博士後期課程 研究指導認定

~2007 京都大学大学院 教育学研究科 教育科学専攻 博士後期課程 単位修得後退学

 

<職歴>

2007/04 ~ 2008/03 大阪商業大学比較地域研究所 JGSS(Japanese General Social Surveys:日本版総合的社会調査) ポスト・ドクトラル研究員

2008/04 ~ 2014/03 東京福祉大学 教育学部 専任講師

2009/04 ~ 2010/03 早稲田大学 文学部社会学コース 非常勤講師(社会学演習1B、社会学演習2B担当)

2014/04 ~ 2018/03 神戸学院大学 現代社会学部 専任講師

2018/04 ~ 神戸学院大学 現代社会学部 准教授

2024/04 ~  関西学院大学 社会学部 非常勤講師(学校の社会学担当)

 

<著書・論文歴>

2026 論文 「国立大学附属中等教育学校における「探究」学習と社会学」日本社会学会社会学教育委員会『探究学習を通じた高大連携』所収(単著)

2025 論文 「「やりたいことがないのに,大学に進学するべきではない」という教育意識の規定要因 」『現代社会研究』 (11) (単著)

2023 論文 「神戸学院大学男女共同参画推進に関するアンケート調査の集計と分析」 神戸学院大学男女共同参画推進室『2022年度神戸学院大学男女共同参画推進に関するアンケート調査 報告書』所収(単著)

2020 論文 「子育て世帯の生活水準と長子にかけた教育費の長期的変化」 『季刊 個人金融』 (2020年冬) (単著)

2018 論文 「家計の学校外教育費支出構造の変化-SSM-2005・SSM-2015を用いて-」 『2015年 SSM調査報告書4 教育Ⅰ』 4 (単著)

2018 論文 「教育費と教育意識」 稲垣恭子・岩井八郎・佐藤卓己編『教職教養講座 第12巻 社会と教育』協同出版所収 (単著)

 

他多数

 

引用:神戸学院大学 教員データベース

教育費はどこで差がつく?所得・子ども数・教育段階で変わる支出構造

教育費が大きく分岐するポイント(所得・子ども数・教育段階)

質問

Q1.教育費は所得・子ども数・教育段階によって差が生じるとされていますが、特に支出が大きく分岐するポイントはどこにあるのでしょうか。

教育段階に関しては、以下の図表が示すように、大学生段階で可処分所得に占める教育費の割合が高くなります。

出所:都村聞人、2018、「教育費と教育意識」(稲垣恭子・岩井八郎・佐藤卓己編『教職教養講座 第12巻 社会と教育』協同出版所収)

子ども数に関しては、子ども数が増えるほど可処分所得に占める教育費の割合が高くなる傾向にあり、多子世帯の教育費負担は大きいと言えます。

 

特に「長子が大学生になる段階」で、子どもの数が増えるほど、可処分所得に占める教育費の割合が高くなることがデータからもわかります。

 

時系列でみると、未就学児、小学生、中学生の子どもを持つ世帯の可処分所得に占める教育費割合は、1979年から2014年の35年間に上昇傾向にあります。そして、高校生、大学生については、1979年から2009年まで、可処分所得に占める教育費割合は増加傾向であることがわかります。

 

しかし、高校生、大学生とも、2009年に比して2014年の教育費割合は低下しています。この背景として、高校生の場合、2010年から始まった高校授業料無償化により、授業料支出が減少した影響と考えられます。

 

そして、可処分所得に対する教育費の割合がもっとも大きいのは、「大学生のいる世帯」です。

 

とくに、1989年以降、子ども2人および3人以上の世帯の教育費の割合が大きくなっていることに注目すべきと言えます。1984年までは、子ども1人と子ども2人の教育費割合の差は4ポイント以下ですが、1989年以降は7.3~9.3ポイント以上になっています。

 

つまり、2番目以降の子どもにも教育費をかけるようになってきたと考えられます。2番目以降の子どもの教育段階は細かく特定できないものの、おそらく高校生、大学生が多いと考えられ、彼らの大学進学に伴う入学金、授業料、受験対策費が教育費を増大させていると考えられます。

 

子どもが3人以上の家庭については、2004年に教育費が可処分所得の3分の1を占めるようになり、その後も30%以上を推移していることからも、多子世帯にとっては「子どもの大学進学が家計に与える影響が大きい」ことがわかります。

 

他方で、上記は2018年の執筆時に集計したものになりますが、大学生については総務省「全国消費実態調査」の集計における学校段階の変化が影響しているのではと思います。

 

具体的には、授業料等が比較的低い専門学校生、短大・高専生が同じカテゴリーに統合されたことで、教育費割合が低下した可能性があります。

 

また、世帯収入別に教育費の平均を見ると、教育費は明らかに世帯の収入により異なっていることが分析でわかっています。世帯収入が多いほど、教育費支出は多い傾向にあります。後述するように、塾・習い事などの学校外教育費の世帯収入による差が大きいほか、世帯収入が多い場合には複数の子どもを大学に進学させることができるが、少ない場合にはいずれかの子どもに進学を断念させる、あるいは進学は国公立大学に絞るなどの調整が行われている可能性があります。

 

世帯収入が低い世帯の場合、収入全体に占める教育費の割合が非常に高く、負担が大きくなっています。

同じ年収でも教育費に差が出る理由(支出項目の違い)

質問

Q2.同じ世帯年収であっても教育費に差が出る家庭がありますが、その差はどのような支出項目の違いによって生まれるのでしょうか。

これは「学校外教育費をどれくらい支出するか」で差が生まれると考えられます。他には、子どもの数、大学の進学先(国公立か私立か)によっても変わるかと思います。

 

 

上記の表は学校外教育活動のタイプをまとめたもので、学校外教育活動の実施有無によって、そのタイプの何%がどの類型に当てはまるかを示したものになります。

 

たとえば、タイプ1の場合は家庭学習も教室学習もスポーツも芸術も全て行っている世帯になり、逆にタイプ16の場合は上記を全て行っていない世帯になります。横に書かれている割合は、各教育段階で、何%が各類型に該当するかというものになります。

 

こうしてみると、もちろんすべての活動を行っている世帯は少ない一方で、複数の種類の活動を行っている世帯もあることがわかります。

 

タイプ16の「すべての活動を行っていない」高校生の割合が高くなっていますが、高校生はスポーツ活動、芸術活動が部活へと移行しますので、習い事の割合が低下していることがわかります。

 

さらに、大学進学を希望しない場合には、塾・予備校を利用することも少なく、32.2%が学校外教育を利用していないことになります。

 

出所:都村聞人、2015、「学校外教育の活動タイプと支出格差」『現代社会研究』1号

 

そして、上の図がタイプ別に学校外教育費を見たグラフとなっています。(横軸が学校段階、縦軸が月額の学校外教育費)

 

複数のカテゴリーの塾や習い事をしている場合は学校外教育費が多いことがわかります。

 

上記から、学校外教育の種類が減る、例えばスポーツ芸術系のみなどいう場合には、学校外教育費は下がるのでどのような学校外教育に取り組むかによって差が生まれることが分かると思います。

 

 

出所:都村聞人、2015、「学校外教育の活動タイプと支出格差」『現代社会研究』1号

 

上の図は、世帯年収別に、活動タイプの構成割合(小学校4-6年生)を示したものです。たとえば、すべての種類の学校外教育を行っているタイプ①の場合は、世帯年収が高いほど割合が高いことがわかります。高所得層では、幅広い学校外教育活動を行っていると言えるでしょう。



反対に、世帯収入が低い世帯では、比較的コストが低い家庭学習活動を中心に行う、学校外教育活動をひとつに絞る、もしくは学校外教育活動を行わないというケースが多いと考えられます。したがって、所得と学校外教育活動の類型も関係しているということになるかと思います。

家計インパクトが最も大きいのはいつか(幼児期〜大学進学の比較)

質問

Q3.幼児期・義務教育・大学進学といった各段階の中で、家計へのインパクトが最も大きいのはどのタイミングだと考えられますか。

これは先ほどのQ1.のグラフで示したとおり、大学進学途中(在学中)が家計へのインパクトが最も大きいと言えるのではないかと思います。

教育費は「考え方」で変わる?親の価値観と意思決定の違い

教育意識は支出にどう影響するのか(価値観と教育投資)

質問

Q4.親の教育意識や価値観は、教育費のかけ方にどのような意思決定の違いを生み出すのでしょうか。

こちらは過去に執筆した論文(家計の学校外教育支出に対してどのような要因が影響しているのかというのを分析した論文:都村聞人、2018、「家計の学校外教育費支出構造の変化-SSM-2005・SSM-2015を用いて-」古田和久編『2015年 SSM調査報告書4 教育Ⅰ』SSM調査研究会所収)から引用したものをベースに回答させていただくと、子どもの学校段階によらず、「高学歴意識」が学校外教育費にプラスの影響を与えていることがわかっています。

 

つまり、「子どもにはできるだけ高い教育(さまざまな観点で子どもに望ましい教育を受けさせたい)を受けさせるのがよい」と考えている世帯ほど、学校外教育費が多いと言えます。

 

ただ、学校外教育意識(「子どもには、学校教育のほかに家庭教師をつけたり、塾に通わせた方がよい」)という独立変数を加えたところ、どの学校段階においても、高学歴意識の影響力は低下し、高学歴意識が学校外教育意識を媒介して、学校外教育費に影響を与えていると考えることができます。

 

したがって、学校外教育のなかでも特に、「塾や家庭教師などを利用した方がいい」という意識が強いほど、学校外教育費が多いということが言えると思います。

 

また、「子どもに財産を残したいか」という質問事項に関しても分析を行い、これについても、「長子中学生・長子高校生」において学校外教育費に有意な影響を与えていることがわかりました。

 

末冨芳先生という方の論文(末冨芳.2006.「教育費スポンサーとしての保護者モデル再考 : 高校生・大学生保護者質問紙の分析から」『教育社会学研究』第77 集: 5-25.)では、教育経済学の分野で保護者の教育は「投資」もしくは「消費」かということが言われてきたのですが、「贈与」という志向性があることも指摘されており、またそれぞれに「子ども志向」と「保護者志向」の動機があると言われています。

 

その意味では、子どもに多くの財産を残すという志向と、子どもに教育費をかけるという志向には関連性があるのではないかと考えることもできます。

 

長子の学校段階が高くなるにつれ、子ども志向で贈与的感覚を持った保護者が「学校外教育費を多く支出する」傾向にあると推察されるということです。

教育費優先か生活バランス重視か(家庭ごとの判断軸の違い)

質問

Q5.教育費を優先する家庭と他の支出とのバランスを重視する家庭では、どのような判断基準の違いが見られますか。

基本的にはどの世帯も教育費を捻出するために、他の支出との調整を図っていると考えられます。限りある可処分所得の中でそれぞれの所得水準に応じて、工夫して教育費を支出しているというふうに思います。

 

他の支出とのバランスを重視する家庭について、たとえば教育費が多いのは「意図的なのか結果としてそうなっているのか」というのは、少し分析・研究では捉えにくい点ではあります。

 

とはいえ「節約」という観点から私が過去に分析したものがありまして、そこからは以下のような結果が得られています。

 

出所:都村聞人、2008、「子育て世帯の消費支出節約行動に関する基礎的分析」(平成17年SSM調査シリーズ10『階層と生活格差』所収)

 

上記は「夫婦と未婚の子ども世帯における教育費節約別に節約タイプの分布」を見たものなのですが、「どのような項目を節約しているか」という質問項目のなかに、「子どもの教育にかかる費用」という費目があります。

 

ここから、教育費を節約している場合は、子ども二人以下世帯では71.4%、子ども三人以上世帯では89.5%が「全般的節約型」になっていることがわかります。

 

分析では節約のタイプを非節約型、基礎的支出節約型、教養娯楽支出節約型、全般的節約型に分けているのですが、教育費を節約している場合にはほとんどの世帯が「すべての支出を節約している(全般的節約型)」ということがわかります。

 

他方で、教育費を節約している世帯で「非節約型」の類型に当てはまる家庭はほとんどいないということになります。すなわち、子育て世帯にとって教育費は優先せざるを得ない支出であることが多く、教育費を節約している世帯では当然他の支出は節約しているということになると考えられます。

 

逆に言うと「教育費は節約するが、他の支出は節約しないというライフスタイルをとる世帯」は少ないと推測できます。

塾・習い事はどこまで必要か?学校外教育が生む支出格差の実態

塾や習い事の支出が増える家庭の特徴と背景

質問

Q6.塾や習い事への支出は、どのような家庭で増えやすく、その背景にはどのような要因があるのでしょうか。

先ほどの論文(都村(2018))の分析の結果にはなるのですが、

  • 居住地域(政令指定都市に居住している)
  • 経済的要因(世帯収入が多い)
  • 文化的要因(母親の学歴が高い、親が文化的活動に積極的)

が要因として挙げられるほか、前述の「教育意識の高さ」「親に学校外教育経験がある」などの世帯で学校外教育費が高くなっています。

 

居住地域に関しては、「都市部に住んでいる」ということが、塾や習い事への支出を増やしていると考えることができます。

 

やはり都市の方がアクセスできる学校外教育も多く、受験や習い事も盛んですし、このような点で一つの要因になっているということです。

 

2番目の経済的要因は上述の通り、世帯収入が多ければ塾や習い事への支出も多くなるという結果が出ております。

 

3番目の文化的要因に関して、たとえば「母親の学歴が高い」「親が文化的活動に積極的である」「教育意識が高い」ということが挙げられます。それから、上記の調査は親が回答者であり、「親である回答者が子ども時代に学校外教育を受けたかどうか」ということも尋ねているのですが、その経験があるほど学校外教育費が高くなっているので、親が学校外教育を経験していることも一つの要因であると考えられます。

 

補足として、今経済的な要因と文化的な要因と分けていましたが、従来、教育社会学における教育機会の不平等研究を見ると、その要因として1つは経済的な要因が挙げられます。

 

日本は教育についての公的支出が少なく、家計の支出に依存する傾向にあります。そのため経済的に豊かな家庭ほど大学進学率も高くなっており、他方で経済的にゆとりのない家庭では授業料の負担が原因となって、希望する進学ができないケースもあるということで、経済的な要因があると考えられます。

 

そして2つ目が先ほど申し上げました文化的な要因ですが、これはフランスの社会学者ピエール・ブルデューらの研究に依拠した分析ということになります。高学歴の親ほど文化的に豊かな傾向があり、子どもの教育に熱心で幼い頃から美術館や博物館に子どもを連れて行き、視野を広げ、本の読み聞かせを行うことにより読書習慣をつけ、様々な習い事によって教育経験を積ませる。

 

こうした豊かな文化的経験を背景に、子どもは高い学力を身につけ、高い教育達成を成し遂げるといえます。

 

3つ目は、親の学歴によって子どもの進学への動機づけが異なることに注目した考え方で、この考え方では、子どもは親と同じかそれ以上の学歴を得たいと希望するという仮定がなされています。

 

これは「学歴下降回避仮説」と言われるもので、この考え方では、「子どもは親と同じかそれ以上の学歴を得たいと希望する」という仮定がなされています。つまり、親が大学卒の場合は子どもを大学に進学させたいという動機づけが大きくなり、その結果、社会階層による進学機会の格差が維持され、平等化しないことになるということです(吉川徹、2006、『学歴と格差・不平等』東京大学出版会)。

 

実際には、ここに地域的要因とかジェンダー要因とかが複合的に関係して、教育における格差に影響を与えていると考えられるのですが、教育費もそのような側面があるということになります。

学校外教育はどこまで効果があるのか(学力・進路への影響)

質問

Q7.学校外教育への支出は、学力や進路に対してどの程度の効果があると考えられているのでしょうか。

こちらは詳細な分析が難しい部分ではあります。

 

「学校外教育費が多いほど成績が高い」といった、単純な二変数の関係を述べた説明は、しばしばインターネットの記事や書籍でなされているのですが、実はこの問題は結構難しくて、もともとの経済的豊かさが影響していたり、先ほどの文化的豊かさが影響していたり、子どもの元々の能力で差があったりなど、様々な要因が関わってくるので、「どこからが学校外教育費の効果になるのか」というのが判別しにくい実態があります。

 

また、ある一定の時期から次の一定の時期の間に成績が上がったとしても、それが学校外教育費の効果なのかというのはなかなか判断しにくいということで、詳細な分析は結構難しいということが言えます。

 

これまでにもいくつか研究が行われているものの、研究の結果は様々で一貫した傾向があまり見出せないのですが、学校外教育の効果が非常に強いという結果はあまり見られないのではないかなと言えます。

 

我々も共著(都村聞人, 西丸良一, 織田輝哉、2011、「教育投資の規定要因と効果――学校外教育と私立中学進学を中心に」佐藤嘉倫、尾嶋史章編著『現代の階層社会[1]格差と多様性』東京大学出版会所収)で分析しているのですが、追加的教育投資・学校外教育費が教育達成に及ぼす影響は「時代により効果が変化している」と考えられます。高校進学が拡大期にあり、学校外教育経験率が高くない時代には学校外教育は教育達成にプラスの効果を持っていたが、学校外教育の一般化に伴い効果は小さくなっていったことが分析の結果明らかになっています。

 

また、他の研究者の知見からは、下記のようなことが指摘されています。

 

・高校進学における社会経済的階層間の機会の不平等について、学校外教育投資が媒介的な要因となっているかを検証したところ、学校外教育投資は媒介的な要因になっていない(盛山和夫・野口裕二.1984. 「高校進学における学校外教育投資の効果」『教育社会学研究』第39 集:113-126.)

・「通塾等の教室学習活動費支出や家庭学習活動費支出は小学校高学年を除き、小・中学生で成績上昇に有意な直接効果を持たない」(片岡えみ.2015.「学校外教育費支出と子どもの学力:経済不況による教育費削減の影響と教育期待を中心に」『駒澤大学文学部研究紀要』第73 号:93-114.)

・男性ではもともと通塾傾向にある人にとって通塾経験が進学校への進学に有利に働くが、 一方女性では逆に通塾傾向のない人にとって通塾経験が進学校への進学に有利に働く(中澤渉.2013.「通塾が進路選択に及ぼす因果効果の異質性:傾向スコア・マッチングの応用」『教育社会学研究』第92 集:151-174.)

・通塾経験は高校進学段階で進路多様校から進学校・中堅校への進学を促進し、特に中堅校進学では親学歴の不利を埋めている。しかし、家庭教師経験や通信教育経験は、男性の進学校進学で親学歴の不利を補う一方で、女性では親学歴の不利を補う効果はなかった(眞田英毅、2018、「高校進学における学校外教育の効果」『社会学年報』47:69-82)

・進路多様校の高校に進学した場合であっても、学校外教育を利用することで学力を向上させ、大学などの高等教育進学段階で不利な条件を挽回できる(眞田英毅、2022、「高等教育への進学における学校外教育の効果:トラッキング後の挽回」『理論と方法』37-2:184-198)

 

ただ、これらの研究の多くは学校外教育の経験の有無の効果を分析したもので、学校外教育費の多寡が学力や進路に及ぼす影響は分析が難しい側面があります。

 

利用機会の差は将来の格差につながるのか(教育格差・所得格差)

質問

Q8.塾や習い事の利用機会の差は、長期的にどのような教育格差や所得格差につながると考えられますか。

教育格差については、ひとつ前の質問でご回答した通りです。所得格差については、こちらも分析が難しいところではあるのですが、家庭の経済格差は「塾や習い事の利用機会の差」に繋がり、それが大学進学などの格差を生み出した結果、所得格差に繋がるという図式は想定しやすいのですが、今のところそのような実証的な研究結果は得られておらず、詳細な回答は難しいと思います。

 

所得格差という観点では、ある程度初職、さらに30代〜40代の人の現職で所得がどれぐらいかを把握するのと、過去に塾や習い事をどれぐらい利用したか、あるいはどれぐらい学校外教育費を払っていたかということを同時に把握しなければなりません。

 

そのため、長期的な追跡調査の結果が必要となり、塾や習い事をしていたかどうかというだけで分析するということは、今後なされる可能性はあるとは思いますが、私が知る限りでは今のところ研究がないのではと思います。

教育費は家計を圧迫するのか?生活水準とのリアルなトレードオフ

教育費の増加が他の支出(住宅・老後資金)に与える影響

質問

Q9.教育費の増加は、住宅費や老後資金など他の支出項目にどのような影響を与える傾向がありますか。

こちらも興味深い問題ではありますが、実証的な研究成果はないのではないかというのが現状かと思います。

 

とはいえ、想定するところでは、老後資金を積み立てている方が多いと思うのですが、教育費が予想外に膨らんでしまって、積み立てをストップすることなどは、割と考えやすいのではと思います。

 

住宅費の方は、持ち家か賃貸かといったことも関係してきますので、なかなか分析が難しいのかなと思います。

 

また、こちらも「節約」という観点でいうと、研究結果からは、子どものいる世帯は子どものいない世帯に比べ、ゆとりが小さいため積極的に節約を行っています。

 

子どものいない世帯は教養娯楽のための支出を惜しまず、自由なライフスタイルを享受していることもわかります。他方で、子育て世帯は、基礎的支出、選択的支出、教養娯楽支出を節約し、家計を調整しています。 

 

そして、子育て世帯の中ではとりわけ子ども数の多い世帯では、所得の少ない世帯において節約が行われている傾向があります。やはり、子どもの数の増加は家計の圧迫につながっていると考えることもできます。

 

節約タイプ別分析の結果においても、子ども数の多い世帯と所得の少ない世帯は一般的に節約が多いことが明らかになっているので「子どもがいるかいないかで節約傾向がかなり違う」というのは予想がつくことですが、子どもを持つということが家計に関しては大きな負担になっていることが分かると思います。

教育費で後悔しないための家計設計と優先順位の考え方

質問

Q10.教育費による家計圧迫を防ぐためには、どのような優先順位や家計設計が現実的だと考えられますか。

基本的には各家庭の家計設計で対応するよりも教育にお金がかからない、公的な仕組み作りが重要だと考えています。

 

日本の場合は世界の中で公的な教育支出が少なく、家計の負担に依存しているのですが、このようなあり方自体あまり良くないと思いますので、家庭で対応するというよりは、公的に教育機会を確保できるような状態にする方が重要だと思います。

 

ただ、各家庭に言えることとしては、きょうだいに平等な教育機会が得られるように心がける必要があると思います。男子の進学を優先し、女子の進学を諦めるという調整が現代でも見られるケースがあります。

 

そうなると、女子や第二子、第三子が希望の進学先に進めないということが結構起きてきますので、そういうことがないように、きょうだいが望む教育機会が得られるようにすることが必要だと思います。しかし、この点についてもやはり公的な支援が拡充されるべきであると考えます。